ホームタップとそのインパクトについて

ガツンと衝撃を受けました・・・大手の本気を見たような気がします。畳み掛けるような施策の連続に戸惑いを隠せません。とにもかくにもこれを読んで下さい。

HOME TAP

キリンビールが個人消費向け家庭用ビールサーバーを2年ほど前に開発していました。前身となるキリン ブルワリーオーナーズクラブが今回HOME TAP(ホームタップ)と名称を変更し、ご自宅でいつでも樽生が飲める会員制頒布会式サービスを新たに開始します。以前よりも価格が1000円ほど安くなりました。

隅から隅まで拝見しましたが、仕組みとしては文句のつけようがないのです。これは凄い。CRAFT DRINKSなりに要点をまとめてみます。

①1本1Lのペット容器が月2回2本ずつ届く
②それもクロネコヤマトのクール便で届く
③ガスカートリッジ、ビールホースなどの備品も勝手に届く
④交換も簡単で、誰でも出来る
⑤サーバー自体が小さく、サイズは幅430mm×奥行430mm×高さ550mm。※ペットボトルを取り出す際に必要な空間を含む。
⑥現在「一番搾りプレミアム」のみだが、今後新商品がどんどん投入される模様
⑦注文や配送日指定などは公式HPからログインしてマイページで操作可能
⑧沖縄、一部離島以外は全国対応

ちなみに、1ヶ月に合計4L届いて月額6900円〜(税込7452円)。こちらにはサーバーレンタル費や備品代、送料も含まれているそうです。

ここまでが発表されている事実です。ここからHOME TAPが巻き起こすかもしれないインパクトについて考えてみたいと思います。

①ハードウェアの効率化
これは現物を見てみないと分かりませんが、タップマルシェのペットボトルと口径が同じで、サーバーの構造も同じなのではないかと予想しています。部品を共通させた方が効率が良いですからね。また、口径が同じなら容器の容量を変えるだけで同じ充填ラインを使用できるはずですから。その辺りも当然考えていて、業務用のタップマルシェと相互補完的な何かがあると睨んでいます。要するに、商品や容器開発もゼロベースで始めなくて良いと言う利点があるわけです。

②商品ラインナップ
先日、常陸野ネストビール、タップマルシェに導入?という記事でタップマルシェにキリン以外のビールが提供される可能性について指摘しました。上記の⑥にもあるように、もしかしたら今後スプリング・バレーやブルックリン、そして常陸野ネストビールもHOME TAPに登場するかもしれません。自宅にいながら樽生で色々なものが楽しめるようになる可能性があります。

③ビールの状態
上記2番目で挙げている通り、デフォルトでクール配送。これは大手のものとしては異例だと思いますが、ビールの状態を考慮すれば当然の流れです。常温流通している間に劣化してはわざわざサーバーで飲む感動が無くなってしまいますからね。この決断は凄いです。コンビニ、スーパーで買う缶ビールとは全く違う次元のものが提供される可能性が低くないと思います。

④一部を除き全国対応
タップマルシェは飲食店専用サーバーで、とりあえず首都圏で1000台を設置しその後全国に5000台という目標を掲げています。これに対してHOME TAPは最初からほぼ全国対応。これは恐らくタップマルシェやビアパブが近くない地方の方狙いの施策であろうと思います。「美味しい樽生ビールが飲みたいけれど、うちの周りにはそんなお店は無いしなぁ。通販でボトル買って自宅で飲むのも良いけれど、やっぱり樽生飲みたいじゃない?」というニーズに応えようとしているのではないでしょうか。ちょっと贅沢な家飲みという位置付けで考えると1ヶ月で4Lというのも絶妙なバランス感だと思います。

⑤直販サイト経由で販売データが取れる
注文は専用サイトで直接行うわけですが、「誰がいつ何を何本」というようなデータが問屋や酒販店を通さずにそのまま生の状態で手に入ることになります。卸売りをしているとなかなか正確には把握できなかった部分ですが、この方法ならそれも可能。顧客の属性等々を考慮しながらデータを解析して販売戦略に活かすことも出来ます。売上金よりももしかしたら大事な要素かもしれません。

・・・もしかして、これって本気じゃないでしょうか?
タップマルシェが「外食×非大衆」向けで、HOME TAPが「家飲み×非大衆(=こだわり派)」をターゲットに見据えていると思います。家庭用市場はプレミアムカテゴリーの最高級缶ビールが価格的に限界だったわけですが、サーバーのレンタル、ビールの直送によって更に高級レンジの全く違う市場創生を狙っているように思われます。これは追々大きな影響を与えるに違いありません。「スタンダード以上クラフト未満」というちょっと背伸びした日常の延長が潜在的に大きなマーケットとして存在することを示唆しているのだと思いますし、それを後発がやってきても入る隙間を無くしてプラットフォームを独占していこうとしているのかもしれませんね。

4Lで7452円ですから、1Lあたり1863円。ざっくり計算して、1パイントで900円ほど。正直なところ、「家飲み」というイメージや現在流通する商品の相場からすると相当高い印象ではあります。しかし、今までが安すぎたのであり、価値あるものは安くない価格で当然です。普及には時間はかかるかもしれませんが、ボリュームが出て来たら更に安くなる可能性もあります。こういう形で家飲みが拡充されてきたら「樽生=外食産業の専売特許」ではなくなってくるのかもしれませんね。仕入れた樽を繋いで出すだけならHOME TAPと同じですから、これから飲食店で飲む樽生には当然プロならではの+αが求められるのでしょう。繋いで出すだけの時代はもうすぐ終わります。