ビールの定義見直し、実は外圧なんじゃ・・・

先日、気になるニュースが出ていたのでご紹介。そして、その裏側についても私見を述べてみたいと思います。

まず前提として前回投稿した税率変更と発泡酒免許の話を一度御覧ください。「名目上”発泡酒”だけれど、税金はビールと同じもの」のことを書きました。面倒くさいですし、分かりにくいですよね、「名目上”発泡酒”だけれど、税金はビールと同じもの」なんて。そう思われた方も多いのではないでしょうか。

さて、<ビール定義>麦芽50%以上に見直しへ 政府・与党が緩和というタイトルの記事がyahooニュースに出ていました。概要はこちら。

政府・与党は2日、ビールの定義を見直す方針を固めた。酒税法は、ビールの定義を「麦芽比率67%以上」と定めているが、これを「50%以上」に引き下げる。また、風味付けに果実や香辛料なども使用できるようにする。定義を緩和することで、メーカーに多様な商品の開発を促すのが狙い。2017年度税制改正大綱に盛り込み、18年度から実施する。
見直しでは、麦芽比率を引き下げるほか、麦芽やホップ、麦、米、トウモロコシなどに限っている原料の規定に、果実(果肉・果皮)や香辛料も加える。具体的な対象品目は今後検討するが、コリアンダーやオレンジピールなどが追加される見通しだ。

これが正式に認められると、随分と内容が変わりそうですね。コリアンダーやオレンジピールが認められそうだということは、ヒューガルデン ホワイトに代表される「ベルジャンウィット」が発泡酒ではなくビールとなると考えて良いと思います。

税率の変更を日本が自主的に行い、それに伴って定義や原料を見直すような流れになんとなく見えるのですが、私は「外圧」が一番の原因だと思っています。The Brewers of Europeという欧州の団体が昨年2月26日にこんなことを発表していました。

EU-Japan: a fair call from Europe’s Brewers to call Beer “Beer”
Brussels, 26 February 2015

As discussions on the EU-Japan free trade agreement continue this week, The Brewers of Europe hopes compromise may still be found around rules governing the import of European beers to Japan.
The Japanese beer definition, which stipulates the percentage of malt needed to call it beer, means that many European beers, especially Belgian, cannot be classified as beer in Japan.
Instead many European brewers are compelled to label their products as ‘happoshu’, which can be roughly translated as ‘bubbling spirits’ and has the image of a low quality product when compared to beer.
With positive compromises between Japan and the EU on so called ‘non-tariff’ barriers already being achieved, The Brewers of Europe hopes that a fair solution for the export of European beers may be found.
The current proposal being discussed is to create a new definition of ‘imported beer’, ensuring Europe’s brewers can promote their beers as high quality products rather than an inferior beverage.
Such a solution would support European beer exports whilst also protecting both European brewers and the reputation of Europe’s beers.

ざっくりまとめると、「麦芽のパーセンテージでビールと分類されないものが欧州に、特にベルギーのものに多く、日本でそれは発泡酒とされてしまう。発泡酒はビールに比べると低品質商品のイメージがあり、輸入ビールの新しい定義を作ることが求められている。」ということ。

そのまんま、これじゃないですか!国は「EUからクレームがついたので変えようかと思っています」なんて絶対に言わないだろうけれど、私個人はこれが一つの原因だろうと思っています。

さてさて、再びYahooニュースの原文に戻りましょう。続く部分にこうあります。(下線は筆者による)

 定義の見直しで、これらもビールと表記できるようになる。政府・与党は、見直しを通じて大手メーカーや、特徴あるビールをつくる小規模メーカーなどの商品開発意欲を後押ししたい意向だ。国内の大手メーカーの発泡酒は基本的に麦芽比率25%未満のため、影響は受けない。
一方、ビール類の税額を一本化する過程で、23年10月には現在の発泡酒と第3のビールの税額を同一とし、第3のビールの区分を廃止して発泡酒に統一する。メーカーは、第3のビールに「カロリーオフ」など発泡酒と異なる特徴を持たせることが多く、区分が同じになっても、商品の特徴を生かした販売戦略を進めると見られる。

1つ目の下線で「ビール免許を有する醸造所がベルジャンウィットなどをビール免許のもとに製造できるようになる」ということが示されています。原料の規定によってはもっと色々なものが作れるかもしれません。
また、2つめの下線は「免許体系が変わります」ということを言っているのでしょう。実施はまだ先ですが、現行での発泡酒免許はどういう扱いになるのか?ちょっと気になっています。

なにはともあれ、変わることは良いと思います。幾分世界のスタンダードに近づくことは間違いありません。この部分はちゃんと評価しなくてはならないでしょう。やっと法律が認識に近づいてきたわけです。しかし、たびたび申し上げているように、クラフトビールはクロスオーバーな存在であり隣接領域との境目が極めて曖昧になりつつあります。酒税法上の区分においては微妙なモノがますます増えてくると思います。人の認識とビール自体は法律を置いてけぼりにしてどんどん先に進んでいくことでしょう。実に面白い。

ちなみに、カバー写真は先日飲んだアメリカの醸造所westbrookのwhite thaiというベルジャンウィットです。