リンゴの醸造酒 BJCPの場合①

先日イギリスの消費者団体、CAMRA(カムラ)の考えるサイダー製法などについて見てきました。今回は別の視点で考えてみようと思います。

Beer Judge Certification Program(略してBJCP)というビール品評会の審査員や自家醸造家の為のガイドラインがあります。アメリカ生まれのもので、ビールだけではなく幅広く醸造酒をカバーしている優れたものです。こちらはシーンの状況に合わせて何年かに一度改定されます。2008年版は日本語でも読めるので調べてみて下さい。7年後の2015年に現在の最新版が出ています。

2015年版では独立していますが、2008年版ではサイダー、ペリーおよびミード(蜂蜜の醸造酒)を含む形で掲載されていました。地域や歴史などからカテゴリーを下記のように幾つかに分けて説明がされています。(スペシャリティについては今は触れません。)

Introduction to Cider Guidelines (Categories 27-28)
27. STANDARD CIDER AND PERRY
27A. Common Cider
27B. English Cider
27C. French Cider
27D. Common Perry
27E. Traditional Perry

この項目の序文(INTRODUCTION TO CIDER GUIDELINES)にはこうあります。

Cider is fermented apple juice. Perry is fermented pear juice. There are two categories for cider/perry: Standard (Category 27) and Specialty (Category 28). The Standard category covers ciders and perries made primarily or entirely from the juice of apples or pears (but not both at once). The only adjunct permitted in the Standard category, and only in some subcategories, is a limited addition of sugar to achieve a suitable starting gravity. Note that honey is not a “sugar” for this purpose; a cider made with added honey must be entered either as a Specialty cider or as a Cyser under the appropriate mead sub-category. Other sugar sources that also add significant flavors (brown sugar, molasses) would also create a Specialty cider (such as New England style).
サイダーはりんごジュースを発酵させたものです。ペリーは洋なしジュースを発酵させたものです。それぞれ2つのカテゴリーにスタンダード(27番)とスペシャルティ(28番)があります。スタンダードカテゴリーでは100%もしくは一番多い材料としてリンゴもしくは洋なしを用いたものをカバーしています。(両方一度に使用したものは除外)スタンダードカテゴリーおよび幾つかのサブカテゴリーで唯一許されている副原料は狙った初期比重を稼ぐための糖で、それも限定的な使用のみです。ご注意頂きたいのはこの目的において蜂蜜は糖ではないということです。蜂蜜の入ったサイダーはスペシャルティサイダーとして、もしくはミードのサブカテゴリーにCyzer(サイザー、リンゴと蜂蜜の醸造酒)としてエントリーしなくてはならない。その他に特定の風味を伴う、たとえばブラウンシュガーやモラセスなどの糖の添加は、たとえばニューイングランドスタイルのような、スペシャルティサイダーとする。

比重を合わせるための糖の添加はOKですが、蜂蜜や風味の付く糖分はダメということですね。

BJCPは品評会の審査員用ガイドラインでもあるので、続く部分にはスペックについてたくさん書いてあります。「××××あるべし」とか、「××××は許される」とか、「××××ならない」などの表現が多く見られます。とはいえ、醸造家のイマジネーションを阻害することが目的ではないので、分類上適切なカテゴリーに出品して下さいということです。全部一度に書くと長くなるので、まずはアロマの部分を拾ってみます。

Aroma and Flavor:
• Ciders and perries do not necessarily present overtly fruity aromas or flavors—in the same sense that a wine does not taste overtly of grapes. Drier styles of cider in particular develop more complex but less fruity characters. In fact, a simple “apple soda” or “wine cooler” character is not desirable in a cider or perry.
必ずしもフルーティなアロマ、フレーバーがなくても良い。アップルソーダやワインクーラーのようなキャラクターは望ましくない。

• Some styles of cider exhibit distinctly NON-fruity tastes or aromas, such as the “smoky bacon” undertones of a dry English cider.
スタイルによってはフルーティな味わい、香りでないものが存在することもある。ドライなイングリッシュサイダーにはうっすら「薫製ベーコン」の風味があったりもする。

The sweetness (residual sugar, or RS) of a cider or perry may vary from absolutely dry (no RS) to as much as a sweet dessert wine (10% or more RS). In sweeter ciders, other components of taste—particularly acidity—must balance the sweetness. The level of sweetness must be specified in order to arrange flights of tastings and entries within flights. Tasting always proceeds from drier to sweeter. There are three categories of sweetness:
サイダー、ペリーの残糖による甘みの程度は「ドライ」から「甘口デザートワイン」まで範囲があります。酸によってバランスが取れていなくてはなりません。甘みのレベルでテイスティングの順番を決めましょう。ドライなものから甘口のものへと進みます。甘さによる3つのカテゴリーは以下の通り:

o Dry: below 0.9% residual sugar. This corresponds to a final specific gravity of under 1.002.
”ドライ”は残糖分0.9%以下、最終比重1.002以下。
o Medium: in the range between dry and sweet (0.9% to 4% residual sugar, final gravity 1.002 to 1.012). Sometimes characterized as either ‘off-dry’ or ‘semi-sweet.’
”ミディアム”は残糖分0.9〜4%、最終比重1.002〜1.012。オフドライ、セミスイートとも言う。
o Sweet: above 4% residual sugar, roughly equivalent to a final gravity of over 1.012.
”スイート”は残糖分4%以上、最終比重1.012以上。

面白い。非常に面白い。こんな感じでたくさんのことが書かれていますが、ここから先が少々やっかいです。急にワインやそれ近い用語が多くなります。再三このブログで申し上げているように、クラフトビールやその周辺はクロスオーバーな存在であり、その境界が曖昧になってきています。サイダーにおいてもワインとかなり近い部分を持っているということなのですね。

今日は一旦ここで筆を置きます。続く。