CRAFTY(クラフティ)問題をおさらいしておこう

昨日、カムデンタウン買収の話をしました。今朝はコロラドのBreckenridge breweryの話も出ています。いわゆるBIG4と呼ばれる超巨大ビール会社は次々にクラフトブルワリーを買収していて、もう訳が分かりません。結構有名な醸造所が実は大手傘下だったりするので、ますます分かりにくい。どこの醸造所は独立していて、どこは買収されたのかちゃんと整理しておかないと、とも思い始めました。これは今度別の記事としてまとめたいと思います。

さて、大手の買収でやっかいなのは「買収してもブランド自体は残す」という点です。つまり、名前はそのままにぱっと見て大手のものとは分からない形で今まで通り流通しているということ。こういうビールを世界ではCrafty(クラフティ)と呼んでいます。色々な意味を持つ言葉ではありますが、ビールの文脈でいうと「クラフトっぽい」ということですね。ちなみに私はこういうクラフティなビールのことを「なんちゃって」と呼んでいます。

クラフティについて詳しくご説明しましょう。まずは前提としてこちらの記事をお目通しください。ブルワーズアソシエーションの定義を確認の為に引用します。

Small

Annual production of 6 million barrels of beer or less (approximately 3 percent of U.S. annual sales). Beer production is attributed to the rules of alternating proprietorships.

Independent

Less than 25 percent of the craft brewery is owned or controlled (or equivalent economic interest) by an alcoholic beverage industry member that is not itself a craft brewer.

Traditional

A brewer that has a majority of its total beverage alcohol volume in beers whose flavor derives from traditional or innovative brewing ingredients and their fermentation. Flavored malt beverages (FMBs) are not considered beers.

簡単に言うと、クラフトブルワーの定義は「小さい」・「独立している」・「伝統的」であることの3つです。大手はその大きさの点で第一の条項に引っかかるのでクラフトブルワリーではないことになります。問題は次です。「クラフトブルワーではない者に25%以上所有されたり、コントロールされてはいけない」のです。大手の買収はこの第二の項目に引っかかります。ゆえに、買収された醸造所はクラフトブルワーではない、つまりクラフティだと言われるわけです。ここを押さえておきましょう。

大手の力を使って規模を拡大することは資本主義社会における産業として合理的な選択です。しかし、この「クラフトVSクラフティ問題」は複雑で、色々な意見があります。その詳細については別途書きたいと思います。

先日のカムデンタウンもそうでしたが、「買収されても何も変わらない」と言います。ブランドもビール自体もそのまま残るし、続いていく、と。大手の広告や営業、流通を使うだけであって、何も変わらない。本当にそうでしょうか?ミーンタイム売却の話もありますし、額面通りに受け取るのはちょっと難しい。思い入れのあるビールに対しては「このまま大きく成長して欲しかったなぁ・・・」という思いが拭いきれず、なんだかモヤモヤするのです。

これは完全に個人的な意見ですが、クラフティ問題の本質の一つは「駆け出しの頃から応援していたインディーズバンドがちゃらちゃらした曲でメジャーデビューした時に感じる嫌悪感や喪失感」に近い気がしています。単に嫌悪感や喪失感で終われば良いのですが、この感情が怒りへとつながることも多い。その気持ちも分からないでもないのがまた心苦しいわけです。