出版までの道程1 独立開業して物を書いていたらコミケに出ることになった

8月にKADOKAWAから「クラフトビール入門」を出版することになりました。今思えば、出版に至るまでには色々なことがあり、その道筋は決して平坦なものではありませんでした。今回からしばらくそのことを綴ってみたいと思います。

2015年の夏に独立開業し、CRAFT DRINKSをスタートさせました。前職のインポーターではベルギーのビールだけを扱っていたのですが、当時の世はクラフトビールブーム勃興期。ビアギークの興味関心が急速にIPAへと移っていくのを肌で感じていました。その流れに少々恐怖も感じつつ、その一方でワクワクしてもいました。ベルギービールを既存のベルギービールの文脈だけで成り立たせることは段々難しくなっていて、ベルギービールをクラフトビールと接続していかなくてはならない、そしてそれと同時にクラフトビールなるものが一体どういうもので、その何が私たちを強く惹きつけるのかを記述していかねばならない、と考えたのでした。

こうした問題意識の下、酒販と並行して物書きを始めました。最初の投稿は2015年10月26日。「craft drinks創設について」と題した短い文章です。

craft drinksは「最高の作り手の、最高の作品を、最高の状態で」をコンセプトに創設されました。

ビールやウイスキーをはじめ、世界中で様々なお酒が楽しまれ人気を博していますが、高い品質のものばかりとは言えません。

私たちの心、そして体は口にしたものから出来ています。

それらに大きく影響を受けるので、より良い明日を過ごす為に昨日よりももう少しだけ飲み物に気を配ってみるのも良いのではないでしょうか。

私たちCRAFT DRINKSはそんないつもよりも少しだけ上質な、明日をより良くしてくれる飲み物をご提案して参ります。

ぼくらは、くちにしたものでできている。ちゃんと知ろう。ちゃんと飲もう。

You are what you drink. Choose the finest.

振り返ってみると、ここに私の原点があって、今に続く問題意識の全てが入っていたのだと思わずにはいられません。酔う為ではなく愉しむ為に嗜むならば、そこには何かしらの美学、哲学が必要であり、「良いとはどういうことか?」という問いに真正面から向き合うことになります。ビールに深く関わるようになって15年、独立開業から10年ほど経ちますが、ずっとこのことばかり考えて生きてきました。そして、その答えは一つではなく、矛盾をも包摂する複雑系なのだということは分かるようになった気がします。

週に何本かクラフトビールに関する文章を発表しながら酒販業に勤しみ、ぼんやりと独り考え事をしていた2019年6月のことです。内緒で仲間が勝手に申し込んでいたコミックマーケットに当選してしまったのです。当惑しつつも強制的に出ることになってしまいました。その時の模様はこちら。残り時間は2ヶ月ほどしかなく、勢いだけで書き殴った10万字で「クラフトビールの今とこれからを真面目に考える本」を作って参加しました。この本が商業出版デビューに繋がるなどとは夢にも思いませんでした。

続く

【お知らせ】
KADOKAWAの新書レーベル「角川新書」から「クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」を8月10日に上梓致します。こうした幸運に恵まれたのも皆様に読んで頂き、ご指導頂いたお陰です。心より深くお礼申し上げます。

本書ではこれまでのクラフトビール本とは異なったアプローチでクラフトビールという文化現象について綴っております。クラフトビールの本にもかかわらず個別具体のビールを取り上げてご紹介してはいません。クラフトビールというものが具体的に存在するわけではない、つまり「クラフトビールというビールはない」のであり、あるのはイメージだということを説明するのがこの本の目的の一つだからです。その上で、クラフトビールを液体ではなく文化現象として描き出し、「ビールと私」という閉じた系からコミュニティ、社会へと開いた系へと転回していくことを提案したいと思い、筆を執りました。本書を手に取ってくださった方が素敵な一杯に出会う手助けになってくれることを心より願っております。

現在、下記で予約受付中です。また、お近くの書店で「ISBN:9784040825410 クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会」とお伝えすれば予約・取り寄せも可能です。ご拝読賜りますようお願い申し上げます。

カドスト(KADOKAWA公式)
Amazon
楽天ブックス
セブンネットショッピング
紀伊国屋書店ウェブストア
ヨドバシドットコム書籍
丸善ジュンク堂書店
有隣堂
HonyaClub
Bookfanプレミアム
e-hon
エルパカBOOKS