「オープンソース化と全体最適」、真逆のパクリの話

いつも読んでくださっている皆様にこんなことを申し上げるのは何だか気が引けるのですが、個人的には悩んでいることがありまして。大変恐縮ですが、少々愚痴にお付き合い頂けたら幸いです。

このサイトはwordpressで作られていて、幾つかプラグインを入れています。そのうちの一つにCheck Copy Contentsというものがあって、これは文章がコピーされるとそれを知らせてくれるものです。コピーされるたびにメールが届くのですが、毎日必ず数件はあります。読んで頂いていることは嬉しいですし、私の書いたものがどなたかの役に立つのであればこんなに嬉しいことはありません。しかし、嬉しいことばかりでもないというのが実情です。

実はかなり悪質だと思われるパクリもあるのです。リンクを貼ったり、出典を明記することもなく上手に改変しており、ご本人のオリジナルであるかのように書かれていることもありました。文体こそ違うものの、論旨や取り上げている実例、解釈の根拠となる概念など基本的に同じで、初めて読んだ時は生き別れた双子の兄がいたのかと思いました、本当に。盗用でしょ、これ。剽窃でしょ、マジで。パクりはクラフトビール的な精神とは真逆の行為だと思うんですけど。

流石にこれは・・・と思って連絡を入れたこともありました。しかし、私が書いたものは単にアイディアであって、著作権法上の表現には当たらないので問題ないと丁寧にお返事を頂いたこともあります。

ほほう。よろしい、ならば戦争だ。

とも思ったのですが、訴訟やらは非常に面倒なので諦めました。今回一件潰したところでどうせまたそういう人が出てくるし、そういう作業に時間もお金もかけているのはバカバカしい。もっと他にやりたいこと、やるべきことがありますし、そちらにリソースを割く方が前向きで良い。

とはいえ、気持ちが完全に切り替えられたわけでもなく、一生懸命書いてもタダでパクる不届き者がまた出てくると思うとリリースするのがアホらしく思えてしまいます。書きたいことは常に山程あるのですが、最近更新が滞っているのはそのせいでもありまして・・・性善説で生きていたいけれども、なかなかそうもいかないのが世の中というものなのかもしれませんね。

ところで、2018年11月に「オープンソース化と全体最適」というテーマで大学院で講義をさせて頂きました。その時使用したスライドを一部ここでご紹介します。こういう考え方は非常に大事だと思うのです。

書いてある通りなのですが、クラフトビールにおいてオープンソース化してもビール醸造という作業は属人性が高く、設備に依存するところも大きいのでレシピやノウハウを公開して広く知見を共有した方がイノベーションの速度が上がるのですよね。利用する側はオリジナルに対するリスペクトを表しつつありがたく使わせてもらい、有形無形の便益を得ます。オリジナルの方も公開することでレピュテーションが高まり、長い目で見た時にブランド価値は大きく向上するわけなのです。こういうWin-Winの形は素晴らしいし、対話やコミュニケーションはとてもクラフトらしいと思います。

自分から言うのは何だかおかしいのかもしれませんが、おそらく断片的ではなく、ちゃんとまとまった形でBrut IPAについて日本語で紹介したのは私が最初だと思います。下記がその文章です。

Brut IPA

著者であるJohn Holl氏に直接連絡し、Brut IPAのアプローチの新規性、そのコンセプトは画期的なものであり、日本のビールファンに紹介すべき価値があることを伝え、それを私に翻訳させて欲しいと直談判しました。嬉しいことに「ちゃんと出典を明記してもらえれば翻訳も問題ないのでどうぞ」と先方からご快諾頂き、このような形になったのです。

たまたま私が見つけたので私が紹介しましたが、誰がアクションしても構わないと思います。こういう知見は広く共有されるべきで、ブルワリーが新たな手法を手に入れた結果、私も含む飲み手の集合であるクラフトビールファンコミュニティに還元されるのであえばこんなに嬉しいことはありません。

クラフトビールという共通項を持ったコミュニティの構成員である私たちはコミュニティに生かされているという面もあります。クラフトビールがなければ出会うことの無かった人たちと事実巡り合うことが出来たというだけで幸せなことです。そういう存在に対するリスペクトがきっと心の中にあると思います。そして、各人出来る範囲でコミュニティに対して何かしらの貢献をし、コミュニティの存続を、可能であれば健全な拡大・発展を望んでいることでしょう。たとえば私はBrut IPAについて翻訳をしたけれど、お気に入りのビールをパブで飲むだけでも良いし、美味しかったものを友達に紹介することでも良いと思います。好きなブルワリーのツイートをリツイートするだけ、instagramの投稿に「いいね」するだけでも成立するかもしれません。各人のちょっとしたことの積み重ねできっと全体が良くなると思うのです。

逆に、誰かを貶めたり、蹴落としたりして他者のリソースを奪うような個別最適、分かち合うのではなく独り占めすることによる個別最適に走るべきではありません。当たり前の話なのですが、他人の物を勝手に使ってはいけないし盗んではいけないのです。オープンにすることで優れた知見が共有され、その結果より多くの方がそれまでよりも高い次元で活動することが可能になりますが、その前提となる思想として相互の信頼があることは忘れてはならないと考えます。

剽窃はいけませんが、引用は問題ありません。要はルールに則って行えば良いということです。たとえば文化庁のガイドラインもありますし、クリエイティブコモンズの普及も進んでいますのでちゃんとルールに従って利用し、多くの方と協力してより良い社会にしたいものです。少なくとも私はそういう考え方のもと、活動をしていきたいと思っています。