混ぜて生み出す新たな表現をビアパブに

Oct 10, 2019

ビールには人を惹き付ける何かがあるのだろうと思います。単なる麦芽発酵飲料ではなくて、ロマンみたいなものがたくさん含まれているように感じるのです。その捉え方、切り口は人それぞれ様々で、表現の仕方は違うかもしれないけれど、みなビールとビールを通じたコミュニケーションが好きでたまらないのだと思う。そして、私もそれに魅了されてしまった1人です。

ご縁があって同人サークル・さくらぢまさんと数年前に出会いました。先日、とあるイベントでさくらぢまさんとご一緒した際、彼らの本「ビアカク vol.5」を手に入れました。「ビアカク」は自分で買ってきたビールに色々と混ぜてみてビアカクテルを試してみた!というシリーズで、非常にニッチで体を張ったナイスな企画。こういう勢いとノリは大好きです。「ビアカク vol.5」のサブタイトルには「ルナミストで大人の青春☆」とあります。

・・・ルナミスト?

初めて聞く言葉で何がなんだかさっぱり分からなかったのですが、どうやらカルピスとビールを混ぜたカクテルのことらしい。デイリーポータルZでそう言っていたから間違いない。ちなみに、カルピス公式では現在ルナミストではなく、ダブルカルチャード®と呼んでいます。気合入っていますね、登録商標取得済みです。ビールとカルピスは6:1が黄金バランスらしいですが、ビールは何を想定しているのか?という疑問もあります。まぁ、とりあえずそのあたりは突っ込まずに置いておきます。今日大事なのはそこではない。

coedoの瑠璃やレフトハンドのナイトロミルクスタウト、果てはシュナイダーのアイスボックにもチャレンジ。かわいらしいイラストとは裏腹にまだ見ぬ新たな味覚のフィールドを開拓しようというパイオニアスピリット全開で展開されているのです。「ラオホ+カルピス」のページのカオス具合たるや、半端ではありません。凄い。私には絶対に思いつかない。肝臓を酷使し、時に本能が拒否するような味わいにも体当たりでぶつかり、満身創痍になりながらこのような実験を継続しているさくらぢまさん、素晴らしい。拍手。皆さんも一度読んで頂きたい逸品。ちなみに、Comic Zinで通販可能です。

さて、ここからは大真面目に。

これを手に入れ、帰りの電車内で読んだ時、頭に色々なことがよぎりました。記憶にある様々なパーツが一気に組み合わさって、一つの考えに至ったのです。キーワードは「現場で混ぜる」です。さくらぢまさんの果敢な挑戦を概念的に解釈し、拡張してみましょう。

現在ビアパブではブルワリーからビールを仕入れ、サーバーに繋いで提供しています。ビールの状態や液体の温度、使用するグラスなどの条件によって表現される味わいは変化します。1秒2ozという文章でこう書きました。

注ぎ方で確かに変化はあると私も思います。注ぎ方で味を変えるという考え方はきっとスタンダードなセッティングとその理論をマスターし、良いビールを良い状態のままグラスに移すことが出来てからやってもいいのではないかと思わなくもないのです。ケグからフォーセットまでのセッティングという見えない部分が味に大きく影響するし、そこに美学があると最近つとに思います。

お酒それぞれのポテンシャルを理解し、セッティングなどの諸条件を整えて過不足無く液体の魅力を表現すること。これはとても大事なことで、とりあえずケグを繋いで出せば良いというものでは無いと考えています。とはいえ、このアプローチはブルワリーの技量、実力が大きなウェイトを占め、お店側が出来るのは基本的にそれを損なわないようにすることになります。良いものを良い状態で届けるため、余計なことはしない。そういうスタンスであろうと思います。

それとは全く違う考え方もあるでしょう。お店がビールに対して積極的にコミットし、ブルワリーの表現とは違った形でもう一歩先を目指すものです。

クラフトビールはクロスオーバーなのだから、隣接領域にヒントを求めても良いと思います。たとえば、バーのカクテル。ミックスドリンクを調製することは単品では出せない味わいを生み出す、極めてクリエイティブな作業です。フレッシュハーブやフルーツを使用するだけでなく、近年だと瞬間燻製やインフュージョン、アルギン酸やエスプーマなどの手法で香味やテクスチャーにも変化を与えます。新しい機材、技術の登場によって表現の幅がぐっと広がりました。クラフトビール同様、カクテルもまた新たな表現を模索しています。

近年Mixology(ミクソロジー)と呼ばれるアプローチ方法があります。書籍や動画、webサイトもたくさんあるので興味のある方は是非調べてみてください。youtubeで見つけた動画を参考までに一つ貼っておきます。

ビアパブがこれから差別化を図ろうと考えた時に突破口の一つとなるのはBlending(ブレンディング)とMixing(ミキシング)ではないかとCRAFT DRINKSは考えています。

ランビックやフランダースレッドエールのように酒齢の違う同種のお酒を混ぜることは知られています。マット師匠が指摘しているように、バレルエイジビールとサワーエールを混ぜるのも非常に面白いと思います。同種のものを混ぜ合わせるBlending(ブレンディング)という発想だけでなく、ビールを醸造しそこに違う種類のもの、たとえばフルーツを加えることもよくあります。スパイス、ハーブ類を入れることもありますよね。異なる種類のものを混ぜるMixing(ミキシング)もアリです。すでにこういうものは少なくなく、ブルワリー側で仕上げたものが販売されているのは皆さんご承知の通りです。

もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。飲み手に提供するその場で行う、言い方を変えれば飲用直前に混ぜて仕上げる「カクテル的アプローチ」をビールに応用することは可能ではないでしょうか。Dogfish Headが開発したランドルは分かりやすい例でしょう。もちろん一種類だけでなく、複数の材料を混ぜても良いと思います。大事なのは飲み物として美味しいことであり、結果として最終的なクオリティが高ければOKです。自由な発想で色々と実験してみるのも良いと思います。

歴史的に見てもこういうアプローチはあります。ベルリナーヴァイスにシロップを入れることがありますが、最近だと千葉県のロコビアさんがユーカリーナヴァイスにシロップを入れてイベントで提供しているのを確認しました。このような温故知新のアプローチは今改めて評価すべきだと思うし、その楽しみ方、提供方法に多様性を与えてくれるのではないかと考えています。

飲む直前に何かを合わせ、元のお酒の更に越える表現。現場だから出来るフレッシュさと、予想を超える新しい味覚体験。バーテンダー的アプローチこそ、ビアパブのこれからに必要なものの一つではないだろうか。いや、バーからの発信で革命的なビアカクテルが生まれ、それがビアパブに影響するのかもしれない。どちらからでも構わないけれども、「ブルワリーには不可能な表現とは何か?」、「現場だから出来る表現は何か?」を考え、その先を模索してみるのも案外面白いと思ったりしたわけなのです。

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