評価基準について ミシュランとザガットの違いの話

一度くらいはテレビでこのキャラクターを見たことがあるのではないでしょうか。フランスのタイヤメーカー・ミシュランのもので、ミシュランと言えば権威と歴史のあるレストランガイドも有名です。その星の動向については毎年大きな話題になりますよね。日本でも東京、大阪、京都をはじめとする各地のガイドが発表されていて、昨年から鳥取も加わりました。星付きのファインダイニングだけでなく、ビブグルマンという「安くて美味しい」を基準にした比較的カジュアルなもあるので気になる方は是非調べてみてください。

日本ではミシュランほど有名ではないかもしれませんが、もう一つ有名なレストランガイドをご紹介しておきましょう。アメリカ発のザガットです。ザガットサーベイと言ったりもしますが、日本版も以前発行されていてその当時は大分話題になったことを個人的には憶えています。今もアメリカでサービスを継続していますが、ザガットがgoogleに買収されて2014年を最後に日本版書籍のリリースはありません。

ミシュランとザガットには同じお店が多数掲載されていますが、全く違うアプローチをしていて評価が結構違ったりします。それぞれ仕組みがどう違うかご存知でしょうか?

実は評価する人の属性に決定的な違いがあります。前者は運営側が手配したごく少数の食通に覆面調査させることで評価します。ミシュラン側がこの人なら美味しいものが分かるだろうと判断した人に調査してもらうのです。それに対して後者は一般の方が評価します。ユーザー参加型で、ユーザーのフィルタリングは基本的にされないと言われています。日本の食べログのような形ですね。

どちらの方法にもメリット・デメリットはあるでしょう。前者であればシーンの潮流を理解している経験豊富な方が調査し、その採点はシビアであることが予想されます。しかし、調査する人数が少ないので街場の一般的なお店は対象にならず、どうしてもファインダイニング、グランメゾンばかりになってしまう。美食を極めようとすると致し方ないのかもしれない。他方、後者は人数が多い分それだけデータはたくさん貯まりますが、各人が気ままに評価するので点数のブレも大きい。日常を意識するとこちらの方が現実的には使いやすいのかもしれない。とはいえ、うーん、、、とても難しい問題です。皆さんはどちらが優れていると思いますか?

クラフトビールに関して言うと、ratebeerやbeeravocateなどはザガット式のユーザー参加型です。ワインだとロバート・パーカーやヒュー・ジョンソンなど影響力の強いご意見番がいますが、ビールにミシュラン型のサービスはあるのかしら?何にせよ、クラフトビールはザガット的な評価方法が広く知られています。

もう随分前のことになりますが、毎年審査員として参加していているビアワングランプリに今年も参加して参りました。毎年この時期に東京・錦糸町の駅前で行われているものでたくさんの国産クラフトビールを一度に試すことの出来る貴重なイベントの一つです。まだ行かれたことのない方は来年是非行ってみてください。

グランプリ選出方法は以下。説明を引用しておきましょう。

Q: 『ビアワングランプリ』 は、どのように決定されるのですか? また、選出されるのは1銘柄だけなのですか?

A: エントリーされたノミネート・ビールを対象に、ビール専門家によるビアジャッジ(審査会)が行われます。ご来場者のみなさまにもテイスティング&投票していただき、『ビアワングランプリ』 が決定いたします。また別途、ビールのスタイルに応じた部門を設けて、各部門ごとの受賞ビールも選出されます。

昨年までは上記の通りでミシュランとザガットを混ぜた形になっていました。ブルワー・専門家と一般の来場者を全部合わせた評価です。それが今年から審査員の評価と来場者の評価を混ぜないこととなり、それぞれ独立させて別の賞を与える形に変わっています。ビアワングランプリの運営本部側に今回の変更の理由を詳しく尋ねてはいませんが、CRAFT DRINKSとしてこの変更は良かったのではないかと思います。

「いろんなやり方があった方がいい。子供がやってるわけではないのでそれぞれの理屈が大切で、それをブルワリーにフィードバックできることが素晴らしい」とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ブラインドではなくブルワリー名や銘柄、スペック等々が予め分かっている状態で飲めばそれなりにバイアスがかかることが容易に想像されます。出品ビールの事前情報がなく、妥当性のあるカテゴリーに分けた上で共通する基準によって評価するのとは違うと思うのです。

結局、審査することで誰に何を伝えたいのか?が一番大事なわけです。その結果を正しく導くためにはデータの取り方が決定的に重要です。

好き嫌いが強く分かれる嗜好品のお酒ですから評価の軸を全ての飲み手と等しく共有するのは難しい。開催前に審査員、来場者が一緒にキャリブレーション(較正、つまり各人の評価軸を合わせる作業)を行うのは実質不可能。全員と同じ評価軸は持てません。どういう立場のどういう人がどのように評価したのか?によってその集計結果は大きく変わるでしょう。また、人気や認知が高いこととビールとしての品質が高いことは必ずしも一致しないと考えます。とはいえ、審査会なので点数をつけなくてはならない。その意味でそれぞれ別々にして受賞ビールを決めたことは合理性があり、価値があるのだと思います。人気やブランド認知だけではなくて品質の評価であるこの結果もより多くの方に伝わり、もっとビールに興味を持つ方が増えていったら嬉しいと心から思います。

ちなみに、2019年の優勝は宮崎ひでじビールの栗黒でした。メモを振り返ると私も非常に高い評価をしていました。その結果は極めて妥当であろうと思います。