丁寧に語るために必要なことの一つ
クラフトビールが広まり始め、ドラフトを提供している飲食店も増えました。ブルワリーも300軒を超えていますし、インポートを含めたらいくつブランドがあるのか最早把握できないほどです。短い間に一気に増えました。選択肢が多くなったこと自体飲み手としては嬉しい限りです。しかし、ブルワリー側から考えてみると嬉しいばかりでもないように思います。色んなお店からの引き合いが増えてきていますからどんどん出荷していらっしゃると思いますが、広まってきたからこそそろそろちゃんとルール作りをして対応しないといけないことがあるようにも思います。
たとえば、ブルワリーから飲食店にケグを卸す時のことです。
CRAFT DRINKSが把握している限りにおいては、と前置きしますが、飲食店がデポジット(いわゆる前受金)をブルワリーに先に納めている例は聞いたことがありません。また、ケグの保証金を取っているところも非常に少ないです。加えて、いわゆる売掛で販売していることが多く、卸先への信用で取引が成り立っています。月末締め翌月末支払いがよくあるパターンで、支払いサイトも最大60日です。ブルワリーの立場で見ると決して楽では無い。もちろん掛倒れは非常に痛いわけです。支払いの振込が遅れている場合に督促するのも手間がかかります。支払いは問題なくてもケグの返送が滞っていればその督促もしなくてはなりません。売掛金の回収に加えて与信管理の問題もありますし、ブルワリーの資産であるケグの管理もしなくてはならないとなると相当大変です。
取引先の飲食店が増えるということはそういう作業が増えることでもあります。労働集約的にしない為にも、また妙な心配をしなくて良いように何らかの手を打つべきであろうと考えます。
売掛金の回収に関してはクレジットカード決済や売掛代行を使うとか、代引きで発送するなどやり方は色々あると思います。ケグの管理は、まぁ、ワンウェイケグを使うのが一番だとは思いますが、RFIDタグなどを利用してトラッキング出来るようにするなど対策を講じておく必要があるでしょう。各ブルワリーによって状況は異なりますから全てが当てはまるとは思いませんが、少人数で運営していると何かが起こった時に時間や人手を取られたりして大変です。予防線を張るという意味でも検討しておいて損ではないと考えます。心配事は少なければ少ないほど良い。
こういう仕組みを準備しておくことによって色々な意味で「余裕」が生まれます。業務の効率化や省力化ももちろん大事なのですが、本質的に重要なのはそこではないかと考えているのです。3年前、「たぶん聞いていたけれど覚えてなかったんだ、誰も僕に語らなかったから」と題して短い文章を書きました。そこでこう綴っています。
クラフトビールをクラフトビールたらしめているものの一つはきっと「語ること」ではないかと思っています。美味しいことは最早当たり前で、それ以上の何かが液体の向こう側にあるような気がしてならないのです。そこをコピペの広告で手を抜いちゃいけないのでしょう。個別に語るのは面倒で疲れるし、人も時間もお金も場所も必要。一気に広めるなんて不可能だけれど、語る手間を惜しんだらきっとダメなんだと思います。
語る為には語るべきものを内側に持っていなくはなりません。それは見つめる時間や心の余裕が無いと出来ないことで、日々追い立てられていては「語り」が義務的、事務的になって結果的にやっつけ仕事になりかねません。語るにあたってちゃんと手間をかけられる状態にあることが重要です。丁寧に語ること。丁寧にコミュニケーションを取ること。時間的、精神的な余裕と丁寧さの間には何かしら関係があるように感じられるのです。丁寧に語るために必要なことの一つはきっと過去を振り返り、未来を考える余裕のあることではないか。最近そんなことを思います。