スゴさが共有出来ないもどかしさについて、たとえばSORACHI1984のこと

May 2, 2019

改元もしたし、GW中ですからあんまり小難しいことを書いても仕方ないよなぁと思うのでちょっと好きな音楽のことでも書いてみようかと筆を執りました。

ヘタクソながら趣味でギターやベースを弾くのですが、18歳でこのバンドに出逢ってしまったのが運の尽きでした。世界最高峰のプログレッシブロックバンド”Dream Theater”。このPanic Attackなんてイントロから鼻血が出るくらいかっこいいわけですよ。もうね、このイントロだけで丼ごはんおかわり出来るくらい、かっこいい。

ベースのJohn Myungなんて化物ですよ。六弦ベースをスリーフィンガーで、難解で複雑な変拍子の曲を涼しい顔して弾き切ってしまう。TAB譜も見たことがあるのですが、「バカか、こんなん人間が弾けるわけないじゃん!」と一瞬で諦めました。ギターのJohn Petrucci、ドラムのMike Portnoyも人間離れしているし、全員とにかくすごい。各人の演奏技術、寸分の狂いもないアンサンブル、ドラマチックな展開、どれをとっても超一級品。尋常ではない。

あ、すみません、言うの忘れてました。Mike ManginiよりもMike Portnoyが好きです。異論は認めません、はい。

それはさておき、大好きなDream Theaterのことを特にプログレ好きでもない人に話したのです。終始ぽかーんとしているわけですよ。分かった、分かったよ、そうだろうとも。「とりあえず何はなくともImages And Wordsというアルバムを聞いてくれ」と必死のお願いもしたけれど、結局響かなかった。きっと界隈の住人はこういう経験を何度もしているでしょう。私も幾度となくこのような戦いに破れてきましたが、挫けずに布教活動を続けていきたいと思います。

閑話休題。

昨日このInnovative Brewer SORACHI1984を飲んでいて似たようなことがあったのです。

この衝撃はずっと忘れないのではないかと思います。たまたま見かけたので買ってみただけの缶ビールなのに、死ぬ程打ちひしがれたのです。全てにおいて圧倒的過ぎる。勝てる気がしない。絶望する素晴らしさとはこういうことだろう。僕らは一から出直さないといけないのかもしれない。本気で今そう思っているのでした。スーパーで買える缶ビールにこんなに感動したのは初めてです。あまりの凄さに思わずヘッドブルワーの新井さんにメールしちゃったくらい。

このビールを二人で飲んだのですが、相方は「うーん、まずくないんだけど、なんか好きじゃないな」と言うのです。その時のやりとりはこんな感じでした。

「いやいや、ホップの渋さを出さずにこんなにきれいに風味を出せるなんてすごいことなんだよ!」

「えー、でもなんか変な味がする。ウイスキーみたいな」

「そのウッディさを木材を使わずに出せてるってところがまたすごいわけよ」

「えー、だったらさ、樽に入れたらいいじゃん」

「レモンっぽい香りも出てて、ソラチエースでこんなに出来るなんてとんでもなくすごいじゃん」

「うーん、よく分からんけど、じゃあ、あたしはIPAとかそういうのでいいよ」

がーん。ショック。全然伝わらない。何故だ、何故この圧倒的な技術力、そしてそれによって表現された美が分からんのだ・・・今このグラスの中にある液体は一つ壁を突き破って次のステージを見せてくれているのだよ?あー、もう、モヤモヤするっ!このスゴさが共有出来ないもどかしさは何のせいなのだろう。ちくしょう、なんかちょっとイラッとしてきたぞ、こんにゃろー。

・・・一旦冷静になって整理してみよう。

ホップ会社のYakima Chiefから発表されているホップ品種一覧を是非見て頂きたい。Sorachi Aceのページにはこうあります。

Developed in Japan in 1984 for Sapporo Breweries, Ltd., Sorachi Ace is a cross between Brewer’s Gold, Saaz and Beikei No. 2 male. It is available in limited quantities, however, it remains a popular variety among craft brewers for its unique citrus fruit, herbal and dill aromas.

また、サッポロのSorachi Aceに関する研究でWoody(木のような)、Pine-like(パイン材のような)フレーバーが出るということも確認されています。論文がネットでも読めるので興味のある方は是非お目通しください。

これらを踏まえた上で考えると、SORACHI1984は一切渋みを出さずにSorachi Aceの魅力、ポテンシャルを最大限引き出した素晴らしいビールで、その高い技術力に感嘆します。ベースがIPAではなく、ゴールデンエールだというところも唸るしかない。ギリギリまで攻めている姿勢が感じられる。かつてここまでSorachi Aceの魅力を引き出した国産ビールはあっただろうか。これがスーパーで買えて、なおかつ300円でお釣りが来るなんてにわかに信じがたい。すごい、すごすぎる。

・・・一口、二口と飲みながら頭フル回転でこんなことを考えていたのですが、ふと我に返るのでした。

そうか、日頃ホップを気にしながら飲んでいる奴なんてなかなかいないんだ
Mosaic、Citra、Simcoeがそれぞれどうだとか、α酸値がどうだとか、普通そんなことは知らずに飲むし、知らなくても美味しいものは美味しい

確かにそうです。「ビール」に期待するものが期待通りにあれば良いと考える人が多数を占める中、それを成立させる素材や技術に注目する人は少ないでしょう。けれども、その素材や技術が無くてはビールは存在しないわけで、そこに好奇心をくすぐられるからこそビールは面白いのだと思う。少なくとも面白さの一つではあると思う。どうしたらより良くなるかを徹底的に突き詰め、確固たる技術を駆使して奏でられた質の高いものはもっと手放しに称賛されるべきなんじゃないだろうか。このビールはその点で頭ひとつ抜けている。技術的な素晴らしさを評価するに当たってタンクの本数や大きさは関係ないと思うのです。

とはいえ、それを判断するにあたって特殊なリテラシーを強要するのもおかしな話だ。総体として美味しいならそれはそれでOKで、分からなくても全然構わない。いや、飲み手側から考えなくて良いのかもしれない。むしろ逆で、「なんでこんなに美味しいんだろう?」とか「なんでいつもと違う香りや味がこんなに出るんだろう?」と知的好奇心を刺激するような面白いビールで世の中溢れたら日本のシーンはもっと変わっていくのではないか。Dream Theaterほどストイックでなくても良いけれど、裏で安定感抜群の技術が支えながらも表面はキャッチーで分かりやすいもの、たとえばそういうものが今求められているような気がしてならない。

その意味でSORACHI1984はオーディエンスが未だ慣れていない状況で投入された「渾身の勝負曲」なのだろう。名曲なのは間違いない。いつの日かきっとこの凄さが広く真っ当に評価されるに違いない。全員でなくてもそれに共感する人が徐々に増え、シーンの潮目が変わって来る日が遠からず来るだろうと思います。

超絶技巧が支えながらも、もうちょっと間口の広い感じで、たとえばBaby Metalのようなのがあるといいのかなぁ・・・うーん、やっぱり違うか。神バンドに耳を傾ける前に「Su Metalかわいいね」で終わる気がしないでもない(苦笑)

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