新境地の価値と値段の話

Feb 19, 2019

有名な日本酒に獺祭というものがあります。山口県の旭酒造が作る純米大吟醸専門のブランドです。大変有名なので召し上がったことがある方も多いのではないでしょうか。前掛けや暖簾には「山口の山奥の小さな酒蔵」というキャッチコピーがあったのですが、全然小さくない。旭酒造は現在国内トップ10に入るほどの規模で、全量純米大吟醸の酒蔵としては驚異的な大きさです。正にぶっちぎり。

もちろんその規模も偉業の一つですが、CRAFT DRINKSは別の部分に注目しました。
獺祭には「磨き その先へ」というお酒があります。酒米の磨き具合を表す精米歩合は非公表ですが、2割3分(=23%)を超えるものとして位置付けられており精米歩合は20%より低いと思われます。純米大吟醸が50%ですから、磨きに磨いて芯だけ使った超がつくほど贅沢な作り。で、気になるお値段ですが、なんと4合瓶1本で32400円!精米歩合60%の純米酒が1升瓶1本で3000円前後で販売されていることを考えるとその凄さがよく分かると思います。まだ飲んだことは無いのですが、死ぬまでに一回くらいは試してみたいものです。

更に上を行くのが山形県の楯野川酒造。ここも全量純米大吟醸の酒蔵ですが、限定品「光明」の精米歩合は驚異の1%。99%磨いて削って、残った最後の1%だけ使って醸されたお酒です。このお酒に対して藏はこう語っています。

「精米歩合 1%」
日本酒史上、これまでどの蔵元でも形にできなかった精米歩合です。
「果たしてそこまでする必要があるのか?」
疑問も多くありました。
「挑戦した蔵にしかわからない」
それが、六代目蔵元 佐藤淳平が出した答えです。
1%という精米歩合を実現した蔵にしか体験できない世界がそこにはありました。

「光明」の名は、「前例のない挑戦によって新境地への扉が開き、これから先の 『日本酒の世界』 に明るい希望の光がさすように」という願いを込めて命名いたしました。

これまでの日本酒とは全く違った世界からもたらされる、極めて繊細で透明感ある味わいを、心ゆくまでご堪能ください。

なるほど・・・確かに新境地、ですね。いやぁ、凄い。極めるとはもしかしたらこういうことなのかもしれない。お値段も新境地でして、4号瓶1本で108000円。10万円超えの新境地。半端じゃないです。技術をとことんまで突き詰めた結果、それはどんな味わいになるのだろう、なんだかワクワクしますね。

精米歩合を上げることが技術的にどれだけ難しいのか専門ではないので詳しく分かりません。きっとコストも含めた作る苦労は物凄いことでしょう。もちろんそれも大事なのですが、これらは間違いなく「日本酒の価値を上げ、更に4号瓶1本の上限価格をグッと上げることに成功したお酒」です。これがCRAFT DRINKSが偉業と感じた点。

インターネット社会ですから、スペックやらで調べれば大体の相場というものはすぐに分かります。ある一定の価格レンジに同一スペックのものは収まるように酒蔵も設定していますしね。中央値からそれほど上限も下限も離れていない、という言い方でも良いかもしれません。しかし、これらのお酒は上限を思い切り上振れさせました。技術を駆使して価値を創出し、価格の幅をグッと上に伸ばしたわけです。「清酒ではここまでしかいけないだろう」と無意識に思っていた壁をぶち破ったのですね。

さて、ビールにもびっくりするほどリッチな作りをした高価なものの例が少しはあります。たとえば、アメリカのutopiasというビールをご存知でしょうか?Samuel Adamsが2年に一度作る限定品です。こちらはバレルエイジした複数の原酒をブレンドしていて、2017年リリース分には24年ものも一部含まれているとのこと。度数も22%あります。ちなみに、値段は税抜きで1本199ドル。

コレクター向け商品なのかもしれませんが、まぁ、もはやビールの価格帯ではありませんよね(笑
でも、これが大事なのではないかと思うのです。

生活必需品のコモディティでは無いお酒、特にクラフトビールのような趣味性、嗜好性の高いジャンルのものは価格レンジの下限を下げて広く普及させていくことも大事です。しかし、ぶっちぎりの価値を伴う何かで価格レンジの上限を更に上げていく作業も同時に必要ではないかと思います。日本酒における獺祭、楯野川のような飛び抜けた存在が生まれた時にビールももっと面白くなっていくのではないかと想像します。ビールなのだけれどビールじゃない世界に足を踏み入れる、そんな気がしてなりません。

CRAFT DRINKSが調べた範囲ですと、国内では那須高原ビールのナインテイルドフォックス1998が最高値で13500円(現在sold out)。他に1万円超えのビールは調べたけれど、ありませんでした。記憶にも無いのです。高くても全然構わないので、国内のブルワリーの皆さんに「ビールなのだけれどビールじゃない世界に足を踏み入れる液体」を是非醸して頂きたいです。そんなワクワクする体験をしたいなぁと思う今日この頃なのでした。

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