クラフトブルワーを証明するシール

今回は事実だけご紹介致します。この裏側には色々な思いや思惑があることでしょう。それは複雑過ぎて、私の中でもまとまりきっていません。とても難しいお話だと思います。

一週間ほど前のことですが、Brewers Associationが「クラフトブルワーを証明するシール」を発表しました。その発表はこちらです。

BREWERS ASSOCIATION LAUNCHES NEW SEAL TO DESIGNATE INDEPENDENT BEERS

冒頭部分にこうあります。

In an effort to educate beer lovers about which beers are independently produced, the Brewers Association—the not-for-profit trade group dedicated to promoting and protecting America’s small and independent craft brewers—launched a new seal touting independent craft brewers.
ビールを愛する方たちに対してどのビールが独立して作られているかを伝えるため、アメリカの小規模独立系クラフトブルワーを保護し後押しする非営利団体であるBAは独立したクラフトブルワーであることを示すシールを発表しました。

クラフトブルワーなのかそうでないのかを明確にするべく、シールを作ったのです。BAの定義に合うクラフトブルワーはそのビールに下記のシールを付けることが出来ます。このシールは無料で、BAメンバーであるかどうかは問わないそうです。別途シールの説明だけにページがありますので、そちらもご覧ください。

そもそも何故こういうものを作ったのか?という疑問がありますが、それは本文に詳細に語られています。長いので要点だけまとめておきましょう。

  • ①調査会社による調査によると、独立していることに共感する人が81%
    ②ミレニアル世代が特に顕著であるが、ビールの飲み手は口にするモノに関して「透明性」を重視する
    ③透明性と会社の所有に関することが購買行動を促進する

これに加えて、BAのCEO曰く

“As Big Beer acquires former craft brands, beer drinkers have become increasingly confused about which brewers remain independent. Beer lovers are interested in transparency when it comes to brewery ownership. This seal is a simple way to provide that clarity—now they can know what’s been brewed small and certified independent.”
大手がクラフトブランドを買収していて、どのブルワーが独立を保っているのか分からず困惑している飲み手が増えています。醸造所のオーナーシップのことになると、ビアラバー達の興味は透明性となります。このシールはそこに明確さを与えるシンプルな方法です。小規模で間違いなく独立した醸造所が醸したものであることがこれによって分かります。

また、Allagash brewingの創業者でBAの委員でもあるRob Tod氏は文中でこう語っています。

“When beer lovers buy independent craft beer, they are supporting American entrepreneurs and the risk takers who have long strived not just to be innovative and make truly great beer, but to also build culture and community in the process.”
ビアラバーが独立したクラフトビールを購入すると、イノベーティブな存在であり真に素晴らしいビールを生み出すだけでなく、それをプロセスを通じて文化とコミュニティの形成に努めてきた企業家、リスクを背負ってやってきたきた人たちを応援することになります。

ざっとですがここまでがBA側の発表で、表向きはそのビールが消費者に”クラフト”であることを明確に示し、クラフトブルワーのビール販売を促進する為です。とはいえ、これはアンハイザー・ブッシュ・インベブ(以下、ABI)を始めとする大手とそれらに買収された醸造所を完全に区別する為の方策でもあるわけです。

すでに数百もの醸造所がこのシールを採用したという報道があり、dogfish headもいち早くこれに賛同しました。

この発表を受けてThe High End、つまりABI側から声明が出ています。動画がVimeoにアップされているのでご紹介しておきましょう。内容についてはBeer Street Journalの記事が文字に書き起こしてあるので分かりやすいと思います。日本語での情報はまだあまりなさそうですが、Business Insider Japanの記事が触れていますのでそちらも参照してください。

Six Viewpoints from The High End from The High End on Vimeo.

買収された醸造所の意見も出ていて、各人大事なポイントを押さえていると思います。ざっとですが、抜き出しておきましょう。ABI側の意見も納得のものばかりです。

①ロゴが品質などを表すわけではない
②(大局的に見て)ワインや蒸留酒などとビールは戦っているわけで、ビールの中で揉めている場合ではない
③(オーナーシップではなくて)ビールそれ自体について議論すべき
④パートナーの醸造所に投資することで雇用を生んでいるし、そういう意味でコミュニティに一番大きく貢献しているのはABIである
⑤買収前後で何も活動は変わっておらず、クラフトビール産業をサポートし続けている
⑥独立しているということは”インディー”なのだからロゴ無しでやっていくべき

BAの発表とABIの動画は現在様々な議論を呼んでいます。クラフトビールとは何なのか?皆さまも是非お考えになって下さい。

大した内容でもなく、取り急ぎまとめてみただけになってしまったことをお許し下さい。発表すべきクオリティにない散らかした文章なのは否定できないのですが、それくらいこの件の裏側にある「クラフト観」に関する揺さぶりは強いもので、自分自身戸惑いを隠せません。CRAFT DRINKSとしてもこの議論はとても興味深く、色々と考えさせられるのです。BAもABIも双方共に間違っていないような気がします。この一連の報道に接し、「クラフトとは何だろう?」という問いをまた改めて考えなくてはならないと思い始めました。先日から思いついたことをメモにたくさん書き出してみるのですが、統一的な見解にまでまとめることが出来ずにいます。この議論は今後も続くと思いますので注視していきたいです。近々考えもまとめてみたいと思っていますが、どうなることやら・・