【重要】キーケグによるケグ内二次発酵に関して

CRAFT DRINKSも参加しているシードルオンタッププロジェクトではキーケグに国産シードルを充填しますが、シャンパーニュ等と同じく容器の中で二次発酵させる予定です。(業務用大型容器で二次発酵させた国産シードルは恐らく日本初ではないかと思います。このプロジェクトの詳しい内容についてはこちらをご覧くださいませ。)

一部の方から「キーケグ内で二次発酵させたものはサービング時に爆発するからやめた方が良い」というご意見があったことを先日人伝てに伺いました。二次発酵によって内部のガス圧が高まり、爆発するように勢い良く飛び出してきて注ぐことが出来ないだろうというご心配を頂いていたようです。お気遣い頂き大変有り難いことです。しかしながら、この点についてはポイントを押さえておけば全く問題ありません。心配ご無用です。

先日のオランダ訪問でキーケグを製造するLightweight Conatiner社に伺い、テクニカルな部分も含め改めてレクチャーを受けて参りました。順を追ってご説明致しますので、以下、お目通しくださいませ。

①そもそもキーケグ内で二次発酵出来るのか?
キーケグの公式HP内にあるTechnical Specificationをご覧ください。キーケグ内での二次発酵についてこのようにあります。

Secondary Fermentation (二次発酵)
When kegged beer is meant to undergo secondary fermentation in a KeyKeg, it is essential to add the proper amount of wort or sugar in order to prevent an excessive CO2 build-up in the beer as a result of this fermentation. Another type of risk involves fully fermented beer or wine which contains residual, fermentable sugars. Remaining yeast needs to be filtered out or neutralized before filling the keg. When this is not done properly, unwanted, spontaneous secondary fermentation inside the keg can occur, resulting in an unacceptably high CO2 content. Finally, if nitrogen is used to transfer the wine at the winery, the additional effect of this on the internal pressure should be taken into account.
ケグ詰めビールにおいてキーケグ内で二次発酵させようとした場合、発酵後の過剰な炭酸ガス生成を避けるよう適切な量の麦汁や糖類を加えることが重要です。完全に発酵させたビールやワインであっても発酵可能な糖分の残った状態では危険が伴います。ケグ詰め前に酵母をフィルターで取り除くか効力を無くしておく必要があります。これがちゃんと行われなかった場合、意図しない自発的二次発酵がケグ内部で起こり、その結果耐久力を超える炭酸ガス量となる可能性があります。ワイナリーでワインのケグ詰めに窒素ガスを使用した場合、内圧に炭酸ガスとは別の影響があることを考慮してください。

上記の通り、二次発酵に関して注意点があります。もちろん適切にコントロールすれば可能であることは言うまでもありません。ちゃんと主発酵させたものを詰め、その後も適切に扱えば何の問題も無いのです。事実、世界中のクラフトブルワリーがそうしています。

たとえば、イギリスのビールの消費者団体CAMRAはリアルエールを下記のように定義していて、容器内での二次発酵を必須としています。出典はこちら

Real ale is a beer brewed from traditional ingredients (malted barley, hops water and yeast), matured by secondary fermentation in the container from which it is dispensed, and served without the use of extraneous carbon dioxide.

そのCAMRAがリアルエールにもキーケグが使用できると公式に発表しており、その内容をキーケグ公式HPでも紹介しています。構造からしても妥当な判断かと思います。

Years ago, the CAMRA (the Campaign for Real Ale) Technical Committee recognized that KeyKeg and Real Ale are compatible. Fittingly, KeyKeg is a familiar face during CAMRA beer festivals. This marriage has turned out to work out so well in practice that CAMRA recently announced its decision to further embrace and promote Real Ale in KeyKegs. A special label will be introduced for Real Ales served from KeyKegs. According to CAMRA, KeyKegs now give venues like sports clubs, bars and restaurants the flexibility to serve Real Ales. KeyKeg is helping to make Real Ale more widely available and to distribute it, in England as well as in export markets.

②キーケグは内部からのガスの力にどれほどまで耐えられるのか?
容器内で二次発酵させるということは、液体中に含まれた糖を酵母が代謝し炭酸ガスが発生します。結果、内圧が上がるということです。「キーケグは最大3.5barまで」とCRAFT DRINKSでは書いて参りましたが、これは「抽出時にかけるガス圧」の話です。中身の液体が持つガスボリュームのことではありません。この点は混同しないようにして下さい。

さて、①と同じ資料に内部圧力に関する記述があります。40℃の環境下で6.0barまで耐えられ、7.1g/l まではOKです。(g/lは1リットル中に含まれるCO2のグラム数を表します。)

具体的にこれがどういう数値かというと・・・きた産業さんの資料が分かりやすいと思いますのでこちらを御覧ください。ガスボリュームが多いと言われるドイツスタイルのヴァイツェンで3.0〜3.1CO2 Vol (=約6g/l )で問題ありませんが、シャンパーニュで5.0〜5.5CO2 Vol(=10g/l以上 )となっており、対応出来ません

ところで、炭酸飲料の日本農林規格というものがあり、炭酸飲料のガス圧に関する規定があります。こちらをご覧ください。別表にこうあります。

第2条の表の炭酸飲料の項の1に掲げるもの 0.29MPa以上であること。

「第2条の表の炭酸飲料の項の1」とは「飲用適の水(以下「水」という。)に二酸化炭素を圧入したもの」のことで、スパークリングウォーターを指すと考えて良いと思います。これはOKです。しかし、これに続くものは問題です。「第2条の表の炭酸飲料の項の1に掲げるものに甘味料、酸味料、フレーバリング等を加えたもの」とされ、具体的にはコカコーラやファンタを想像すれば良いと思います。それぞれ0.07MPa以上、0.10MPa以上であることとなっていて、単位を変換して計算すると公式発表されている7.1g/l を超える数値となります。充填は出来ませんのでご注意下さい。

では、ここまでをまとめます。
キーケグは様々な液体を充填できる便利な容器で、ガスボリュームは7.1g/lまで耐えられます。具体的には「ガス強めのビールまではOKだけれど、コーラやシャンパーニュまでいくとダメ」。ヴァイツェンまで問題ないのですから広い範囲でご利用頂けると思います。

③二次発酵したお酒のガスボリュームを測定するにはどうしたら良いか?
ケグ詰めして二次発酵が開始してから実際にどれくらいのガスボリュームになっているのかは見た目では分かりません。狙った数値以上でも困りますし、キーケグの耐久力以上になっては問題ですから必ず計測しましょう。方法は非常に簡単です。解説している動画ございますので、こちらをご覧ください。なお、動画内で「スリムラインでは5.2g/lを超えないように」とテロップがあり、また、ナレーションで「6.6グラムを超えないように」と言っていますが、こちらは古い情報で改良後の現在の数値に直していないようです(この点は本社に伝えておきます)。

2021年11月3日追記 メーカー側は二次発酵に関する動画を削除しています。確認したところ、二次発酵自体は不可能ではありませんが、しっかりガスコントロールが出来ていない事例もあり、現状積極的に推奨してはいない状況です。

④万が一、狙ったガスボリュームよりも上がってしまったらどうすれば良いのか?
答えは非常にシンプルです。抜けば良いのです。youtube動画のスクリーンショットを貼っておきますので御覧ください。圧力メーターがビール抽出口の脇に付けてあります。その先にはボールバルブがついているのがお分かりでしょうか?黒い取っ手を回すと中と外が繋がります。もし狙った値よりも過剰にガスボリュームが上がってしまったらごくわずかにここを開けばガスを抜くことが出来ます。上手に調整して下さい。一気に開けると泡がブワァーっと噴水のように出てくるかもしれませんから気をつけて下さい。また、キーケグは構造上、後からフォースカーボネーション出来ませんのでやりすぎにはご注意を。

以上、ざっとですが解説となります。醸造においては経験や勘も大事なのですが、今回のような事柄に関しては構造や確立されたメソッドをちゃんと押さえておけば全く問題はありません。皆さま、ご心配頂き、誠にありがとうございます。キーケグによるケグ内二次発酵に関してはご安心頂ければ幸いです。