寂しい部分もあるけれど、クラフトビールはニューアメリカンドリーム

The san diego union tribuneに2つ興味深い記事が出ていました。一つはSelling a small craft brewery ‘a personal decision’と題されたAleSmithのもの。もう一つはStone Brewing just says no to ‘Big Beer’というstone brewingのものです。(stoneのものは立ち上げからの話や昨今の買収劇に関する意見も含まれていて非常に面白いです。興味のある方は読んでみてください。)

内容自体は極めてシンプルに見えます。「クラフトビール産業はきついし、大変だけど、クラフトビールを愛するファンのために一生懸命頑張ります。会社を売るとか考えていません。」ということを語っていて、特に「会社の売却」についてはどちらも強く否定しています

ここで考えなくてはいけないのは「なぜ強調するのか?」という点でしょう。実際、stoneもベルリンに醸造所を立て、欧州での販売も始まります。AleSmithはビールのロールスロイスと評されてratebeer100点をビシバシ取っています。ミッケラーと一緒に醸造所を運営することにもなっていて、見通しは悪くないはずです。しかし、彼らの発言の裏にはクラフトビール産業のビジネスモデルの一つとして「会社の買収・売却」、「ブランドの買収・売却」が確実に存在するということを示しているように思われます。

ABGの出稽古プログラムという投稿でアメリカの友人が醸造家修行をしている話を書きました。彼は非常に頭の良い人で、出稽古プログラムに参加する際にこんなことを言っていました。

雇われで醸造家をやるのは結構しんどいよ。給料はそれほど高くないし、肉体的にもハードだ。自分でビール会社を作って売っていかないと儲からないよ。設立資金をどう工面するかが問題かな。

なるほど・・・ビールは高いものではありませんから、一定以上のボリュームが出ないと儲かりません。また、ビール事業は設備産業であるという面も否定できず、設備投資をしないと大量生産出来ません。とはいえ、雇われている間は給料も多くはない。うーん、なかなか厳しい。

となると、初期投資をがっつり行ってブランディングにも成功し、知名度・評判の高まった会社は「更なる投資」を進めて販売を伸ばすか、「会社の売却」を考えるでしょう。オーナーとしては会社売却の利益をたっぷりもらって勇退するのも一つの手かもしれません。資本主義的側面から見ればその選択は合理的で大成功です。クラフトビールが流行し一つの産業として確固たる地位を築き始めたからこそ、ビジネスとしての側面もしっかり考えねばならないのです。売却に成功すれば「ニューアメリカンドリーム」なのは間違いない。なんだか、こう、ちょっと寂しい気もするけれど。

私は彼に尋ねました。

とはいえ、クラフトビールはニューアメリカンドリームでしょ?

まあね。

メールだったから、「まあね」の真意はどこにあるのか図りかねます。でも、彼なら何かやってくれるだろうと思っています。

ちなみに、AleSmithはemployee stock-ownership plans (ESOP)、つまり社員持ち株方式を採用している会社なので、すぐさま買収という話にはならないと思います。ご安心を。