温暖化とビール
イギリスのビールを中心に書いている“Boak & Bailey’s Beer Blog”を好んで読んでいます。筆者は”Brew Britania“の著者で、知的でとても品の良い文体。皮肉もユーモアもあり、ビールブログとして世界最高峰の一つだと思います。英語を読める方は是非ブックマークを。
さて、彼らの記事に大変興味深いものがありました。“CLIMATE CHANGE AND BRITISH BEER”と題された文章で、非常に短いものなのですぐに読めると思います。その内容は示唆的で、ビールの向こう側に透けて見える世界について考えさせられます。
The Guardian today features a story about the Cantillon brewery in Brussels which, owner Jean Van Roy says, is suffering as a result of climate change:
“Ideally it must cool at between minus 3C and 8C. But climate change has been notable in the last 20 years. My grandfather 50 years ago brewed from mid-October until May – but I’ve never done that in my life, and I am in my 15th season.”
This reminded us of an exchange we had with a senior figure at one of the larger British breweries last year who said that climate change was among their biggest long-term worries.
In particular, they suggested, cask ale still relies to a great extent on naturally cool pub cellars. (And, as a result, warm summers can already be a problem for cask ale quality.) If those summers last longer, and get hotter, traditional British beer will struggle. Cellar refrigeration is already common but might become absolutely necessary, even in pubs that haven’t needed it in the past.
That’s on top of concerns over how it might affect hop farming and malting barley; a nagging sense of guilt over the amount of water used in brewing; and about the amount of energy used to ship it, and its ingredients, very often under refrigeration.
We’d be interested to hear from others involved in brewing and the pub trade: is climate change on your ‘risk register’?
これで全文です。極めて分かりやすいロジックで書かれています。段落ごとに要点をまとめておきましょう。
①ガーディアン紙は気象変動の影響を受けているカンティヨン醸造所について報じた。
②気象変動によって昔ほど気温が下がらないので、醸造時期が変わっている。
③イギリスの醸造家の間でもこのことは懸案事項だ。
④カスクエールはパブのセラー、そして気温と密接な関係があり、品質に影響が出る。
⑤ホップやモルト、醸造時の水やエネルギーなどに関心があるかもしれないが、これはもっと重要なこと。
⑥業界関係者がどう思っているのか、とても興味がある。
夏が暑すぎて2015年のホップはかなりダメージを受けたそうです。収穫量は少なくて、ホップは需要に応えられないかもしれません。その結果、世界中でホップ争奪戦が始まります。ホップのことは随分前から話題になっていたのですが、もっと大きな流れとしての気象変動について指摘したものはこれ以外に知りません。私も大事な点だと思います。
伝統的なカスクエールやランビックは冷蔵庫が発明される遙か昔から楽しまれていて、気温や気候も必要条件として内包する形で存在しています。風土や文化などは切っても切り離せないものです。「今は冷蔵庫があるのだから問題ない」と言うのは簡単です。しかし、科学や技術ではまだ克服出来ないこともたくさんあります。また、文化は一度途絶えてしまうと復活させることは極めて難しい。伝統的なカスクエールやランビックを「流行りもの」や「単に目新しいもの」として飲むのではなく、「文化の発露」として飲んでみるのも良いのではないでしょうか。日本のクラフトビールシーンにこういう視点が生まれたら、それは文化の始まりだと思います。