
クラフトビール文献読書会会報第3号のチラ見せ
3月15日に東京・大田区産業プラザPiO 大展示ホールにて開催の関西めしけっとin関東にて発表する、私どものクラフトビール文献読書会会報第3号が出来上がり、納品されました。間に合って良かった…とホッとしております。会場のみならず、BASEの本屋でも取り扱っておりますので、ご拝読賜りたく存じます。
今回も大盛りとなっており、4.5万字を超えました。内容のハイライトとしては、国産原料としての麦芽・ホップの回と現役醸造家をゲストとしてお招きした回でしょうか。なかなかウェブでは出てこない情報、知見が詰まっていると思いますので、ご覧になって頂けたら嬉しいです。
せっかくなので、内容の一部をご紹介します。第6回の第2部「契約取引データに基づく国内ビール麦生産の成立要因と課題」を下敷きにした議論の一部です。
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7.アメリカの事例 Craft Maltsters Guild
前項で「ブルワリーや農家、品質をチェックする研究機関からの情報」が期待されるとしましたが、各レイヤーが密接に連携して情報交換をしていないのではないかという指摘がありました。それを受けて、情報交換やそこから吸い上げた情報による品質改善や新商品開発が行われている事例としてアメリカのCraft maltsters Guild(クラフトモルトスターズギルド)[1]のことが紹介されました。
Craft maltsters Guildは製麦会社の組合で、クラフトビールやクラフト蒸留酒向けの麦芽を生産する小規模製麦業者(クラフトモルスター)を支援するための国際的な組織です。2013年に設立し、小規模な製麦所の発展を支援し、クラフトビール・蒸留酒業界の持続可能性を高めることを目的に組織されました。具体的にはクラフト麦芽の品質向上と標準化、クラフト製麦業者への技術支援、業界のネットワーキングと教育プログラムの提供、地域の農家とクラフト醸造所を結びつけることを推進しています。
Craft Maltsters Guildのメンバーが生産する麦芽(近年クラフトモルトと呼ばれることも)は、地域の農家が栽培した大麦などを使用し、伝統的な製麦技術を活かして作られています。そのため、大手製麦所の麦芽とは異なる個性的なフレーバーを持ち、クラフトビールの多様性を支える役割を果たしています。
同団体はウェブサイトの”Why Craft Malt?”にて以下のように宣言しています。
To put it simply, craft products deserve craft ingredients. While there’s a lot of good malts out there, the majority of it comes from big businesses with production volumes that dwarf all but the largest craft beer and spirits brands. With craft malt, malt buyers can now see eye-to-eye with malt producers. And it turns out that when these folks are seeing eye-to-eye, great things happen.
簡単に言えば、クラフト製品にはクラフト原料がふさわしいということです。良質のモルトは数多くありますが、そのほとんどは大手企業によるもので、その生産量は、最大規模のクラフトビールやスピリッツのブランドを除くすべてのブランドを圧倒しています。クラフトモルトにより、モルトバイヤーはモルト生産者と意見が一致できるようになりました。そして、意見が一致したときに素晴らしいことが起こることが判明しています。
その他に続く部分で下記4点が強調されています。
地元の食材
会員は、地域の農家から最高品質の原材料を調達することを誓約します。当社では、「地域産」とは半径 500 マイルの原材料を使用することと定義しています。この範囲は、収穫量の少ない年でも柔軟に対応しながら、強力な地域穀物経済の発展を促進します。
顧客サービス
クラフトモルトの顧客は、同じ志を持つ中小企業と協力することで多くのメリットを享受できます。具体的には、クラフトモルトメーカーは、バッチサイズが小さく、実験の可能性が高まり、無数のカスタムモルト製造の機会、ユニークな視点、そして単純に楽しいものを提供します。笑顔になる理由がたくさんあります。
多様な方法
クラフトモルト製造業者は、伝統的な方法から技術的な方法まで、幅広い製造方法を活用しています。この幅広い製造方法と、在来種や地域に適した穀物の品種の利用を組み合わせることで、これまでにない多様な風味を探求する刺激的な機会が生まれます。
高品質の原材料
弊社のメンバーは、麦芽製造工程のあらゆる段階で製品テストに取り組んでいます。この取り組みでは、すべての生の穀物サンプルの分析と、完成品の完全な麦芽製造分析を重視しています。畑からマッシュタンまでの穀物を評価することで、業界は安全で高品質な製品の強固な基盤を築くことができます。
ここで重要なのは農家からブルワリーまでのサプライチェーンが意識され、更にはバリューチェーン[2]になっていることです。特に「顧客サービス」の部分から読み取れますが、エンドユーザーであるブルワーからの要望や使用感がフィードバックされ、カスタムされたクラフトモルト製造の実験が行われ、新しい製品が生まれていきます。
今回の論文では研究機関の話が全く出てこないので分からない部分が多く、断言は出来ないけれども、日本だとサプライチェーン全体でテクニカルな情報のやりとりがなされていないのではないか…と想像しました。酒類総合研究所の発表でも大麦や麦芽に関するものが見当たらないので、各アカデミアの協力が今後必要だろうと思われます。
8.昨今の人気の傾向とモルトの関係
近年IPAが人気ですが、ヘイジーIPAの登場以降ホップの味わいを強調するためにモルトの味を極力抑えるようになっています。この傾向は国産モルトには逆風のように感じられます。国産大麦の味わいを強調したくても、それに相応しいビアスタイルが不人気だからです。仮に国産大麦の特徴が明確にされたとしても、それを表現する場が無く、消費者もそれを望んでいない可能性すらあります。
これとは別に、全量国産モルトによるビール実現の提案する意見もありました。但し、モルトスターは規模の経済が働くので、ビール消費量そのものが増加していかないと実現しません。つまり、モルティなビールが先に人気になっていて、その原料供給として海外産麦芽のオルタナティブとして国産大麦麦芽に注目が集まるという順序になると考えられます。
これは小規模醸造所が結集して需要を喚起し、そして同時に供給力を担保する必要があるのでかなり難易度が高いと推察されます。現状、栽培農家も少なく、大手以外のモルトスターがほぼ存在しません。上記の条件に加えてそれなりの規模の収量があって、全国各地にモルトスターが稼働していることも前提になります。こうしたことは実現可能なのかどうか精査する必要があると考えられます。
[1] https://craftmalting.com/
[2] サプライチェーンはモノを供給する流れに関する概念であるが、バリューチェーンは製品の製造や流通、販売といった各プロセスにおいてどのような付加価値が付与されるのかに注目している点で意味が異なる。
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次回クラフトビール文献読書会は3月29日にいつも通り東京・北千住の会議室で行います。第1部はその場で文章を読んで議論する会です。手ぶらでいらしてください。日本におけるビール消費の様式(スタイル)に関する文章を読みたいと思います。
続いて第2部です。第2部は事前に指定された文章を読んできて頂き、それを元に議論をしていきます。今回はクラフトビールを美味しく飲むためにはどのように管理したら良いのかを考えるべく、アメリカのBrewers Associationが発表した “高品質クラフトビールのためのベストプラクティスガイド”を課題図書とします。ビールはどのような条件で劣化(本来は老化というべきだと思うけれど、課題図書で劣化という語句を使っているのでここでもそうしておきます)するのかを知り、実際に飲んだ経験とすり合わせることで良いビール、良いビールの状態について理解を深めていきたいと考えています。上記の課題図書を読み、①ブルワリー、配送業者、酒販店、パブでの取り扱いについてそれぞれまとめて発表し、①を踏まえて自宅までの最適な保管方法および流通システムを考えて発表してください。次回以降、これを下敷きにDraught Beer Quality Manualなども読めたら嬉しいな、と思っております。
なお、参加申し込みはフォームからお願い致します。皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。