モルソン・クアーズ・ジャパン撤退で色々と考えた

こんなニュースが出たのでもう書いてしまおうかと筆を執りました。

「ジーマ」「ブルームーン」が在庫限りで販売終了 モルソン・クアーズ・ジャパン事業終了に伴い 今後の日本販売については本国で検討中

本件について実は11月の段階で知っていたのですが、本体から一切情報が出てこないので特に言及していませんでした。酒屋をしている私にとってはなかなかの衝撃でして、一瞬「終わりの始まり」という言葉が頭をよぎったほどです。それぐらいインパクトのあることなのです。

モルソン・クアーズのことを少し記しておくと、モルソン・クアーズはアメリカのクアーズとカナダのモルソンが合併して出来たビール会社です。その規模は世界5位。多数のブランドを展開しており、世界的に有名なものだとCoors Light(クアーズ・ライト)やMiller(ミラー)があります。買収したクラフトビールブランドとしてはBlue Moon(ブルームーン)やTerrapin(テラピン)、Saint Archer(セイントアーチャー)などがあります。

さて、その日本法人が撤退となったわけですが、それに伴ってモルソン・クアーズ・ジャパンが輸入販売していたZIMA(ジーマ)やBlue Moon(ブルームーン)、Singha(シンハー)、シードルのAspall(アスポール)などが終売になりました。有名どころばかりですし、ちょっと寂しいというのが本音です。コロナ禍も相まってあまり売れていなかったのでしょうね・・・。

さて、ここで私が考えてみたことは商品の販売チャネルのことです。コロナ禍では家飲みが普及し、一般に瓶・缶の販売は伸びていました。家庭用は比較的好調だったと言い換えても良いでしょう。同社ではZIMAが一番普及していた商品で、私の中でZIMAはライブハウスのイメージが強いのですが、コロナ以前からカジュアルなアルコール業態に強かったのでしょう。おそらくZIMAに関しては業務用比率が高く、コロナ禍において家庭用にシフトしきれなかったのではないかと考えています。もちろん営業スタッフの皆さんは尽力したに違いありませんが、すでに固まっていたイメージから脱却することは難しかったのかもしれない。

少なくとも棚に存在する競合商品が、この場合缶チューハイやハイボールなどのRTDになると思われますが、コロナ禍においてどんどんアイテムを展開し、価格と商品ラインナップの広さを武器に棚の専有を広げていく中でど定番3種類だけ勝負するのは大変だろうと想像します。ZIMAの店頭実売価格は安くて税込み200円、定価で230円したが、上述の缶チューハイは100〜150円程度でハイボールは高くても200円でぎりぎりお釣りが来る。この価格差は消費者に大きなインパクトを与えると考えられます。

ZIMAと言えば元祖ハードセルツァーという解釈も可能です。昨年ハードセルツァーがメディアに取り上げられることも多く、日経トレンディの「2022年ヒット予測」でもランクインしました。国内各社から幾つかリリースされたことを考えると仕掛け方によっては再評価の兆しも見えたかもしれません。ただ、その視点を浸透させるにも少し時期が早かったと言わざるを得ないと私は考えています。オリオンビールが発売していたハードセルツァーDosee(ドゥーシー)もすでに終売が決定していて、リリースから9ヶ月で撤退となりました。なかなかうまくはいきませんね・・・。

参考 沖縄タイムス いち早く市場投入も…オリオン「ドゥーシー」が販売終了する理由

また、Blue Moonについてはこんなことも考えました。昨年から成城石井や北野エース、信濃屋などの高級スーパーではクラフトビールの取り扱いがかなり増えました。取り扱いが増えて手に取りやすくなったのは良いのですが、どうしてもIPA中心でスタウト、ポーターのような黒系とベルジャンウィットやヴァイツェンなどの小麦系がとても少ない。店舗によっては一種類も無いことがあります。Blue Moonが美味しいとか不味いとか、クラフトビールなのかそうでないのかなどの話は一旦置いておいて、一般の方にとって入手可能な価格で入手しやすい場所に常時あるということは普及において非常に重要なことで、そういうポジションのビールが一つ無くなったというのはシーンにとって大きな損失ではないかと考えています。

ZIMAやBlue Moonは有名ブランドなので今後どこかの会社がエージェントとして引き受ける可能性はありますが、今のところ私の耳にそういう情報は入ってきておりません。シーンにとって大きな位置を占めたものが無くなり、今はぽっこり穴があいた状態です。輸入再開を待つのも良いですが、ここを埋める何かを新たに考えるのもまた重要な作業かと思います。

ただ、状況証拠を並べていると短期的にはあまり良い予想が出来ません。もしかしたらこのまま再輸入されないかもしれない。というのも、多数報道されているように原油価格の高騰やコンテナ不足も深刻です。インポートブランドにとっては輸送費の高騰を意味し、中身のビールの価格が変わらなくても間接費用のアップで総合的な原価がグッと上がります。物流費に関しては遅かれ早かれ国内ブルワリーにも影響が出るでしょう。この辺りの流れ如何によっては近い将来それなりの値上げが必要です。輸入を再開するにしてもZIMAやBlue Moonなど比較的安かった商品で値上げして仕切り直せるかどうか。私はこの点が非常に気になっています。日本経済が上り調子で可処分所得がガンガン上がっているなら多少の値上げも気にならないのですが、そうでもないので。

2022年、どうなりますかね。