CRAFT DRINKS的 “BEER OF THE YEAR” 2021

毎年恒例の“BEER OF THE YEAR”を書く時期になりましたが、ビールの話の前に今年読んだ漫画のことから始めようと思います。

夏にジャンププラスで無料配信されていた藤本タツキの「ルックバック」を読みました。読み切りではあるけれども140ページを超える大作で、そこに表現されるものは極めて重層的です。絵描きの人が読めばまた違った感想かもしれない。京都アニメーションが好きな人には嫌な感情を思い出させるかもしれない。そのストーリー性、類まれなる画力故か様々な意見が出て若干の内容変更がなされましたが、秋には書籍化して今でも多くの方に読まれているそうです。

公開当初無料で読めたのは大きいと思うのだけれども、ルックバックの読者たちは自発的に自身の考察を発表しました。一般の読者だけでなく、同業者である現役の漫画家も多数発言しました。言葉には出来なかったけれども心に何か浮かべた多くの読者もそれを見、改めて思いを巡らせたに違いない。その心の吐露をクチコミなどと言うとどこか安っぽいけれど、物語の絶対値の高さが心を揺さぶり、自分の外側に一度出さないと収まらなかったんじゃないだろうか。漏れ出した感情がまた新たな感情を呼び、連鎖を起こしたのだと思う。

面白いとも違うし、素直に泣けるとかそういう次元でもない。ただただ凄いものを見せられて、言葉が出てこなかった。要素をバラバラに感じ取る事ができてそれぞれについて冷静に分析できるようなものではなく、この物語はカタマリとしてぶつかってきました。きっと出会い頭にダンプカーとぶつかって轢かれたらこれくらい訳が分からない状態になるんだろう。

思えば似たような感覚になった映画がありました。観終わった後呆然としてしばらく立ち上がれないほどの衝撃。素晴らしい作品だったと思うけれども、敢えてもう二度と観たくない、というような。これまでに観てそう思った映画の1つとして是枝裕和監督の「誰も知らない」があります。柳楽優弥が最年少でカンヌ国際映画祭男優賞を獲得した作品です。

作中で使われているタテタカコさんの「宝石」という歌も絶望するほど美しい。うまく表現できないのだけれども、決しておすすめはしないが観て欲しい映画なのです。

もしも私が映画人であったならばあまりの凄さに映画作りをやめてしまうのではないだろうか。少なくともこの映画を観て「よっしゃ、これでいいならオレも映画作ろ!」と思い立つなど私には想像出来ない。完全に打ちのめされてしまって、これと肩を並べるだけのものを作れるとは到底思えないのです。

勝てる気がしねぇ・・・どうすりゃいいんだ。続けられる自信がない。もうやめるしかないんじゃないか、オレ。

というくらい思い詰めてしまうに違いない。そこにあるのは絶望だけだ。でも、そんな絶望というものの克服が人を成長させるのではないか、と最近思うようになりました。ルックバックについて語る漫画家の中にも同じようなことを綴っている方がいましたが、その気持ちはよく分かるのです。いや、分からないのだけれど、分かる。そういう感じなのです。

私たちは日々疲れ果てて、何かに癒やしを求めたりします。漫画を読んで笑ったのではなくて、笑いたくて漫画を読んだのかもしれない。映画を観て泣けたのではなくて、泣きたくて映画を観たのかもしれない。ストレスの発散にお酒を飲むこともあるだろうし、浸りたくて飲むこともあるだろう。ヤケ酒煽りたくて仕方ない日もある。思うに、欲しかったのは安心なのではないだろうか。すでに乱れた心を治癒するような、自分を包み込んでくれる優しい何か。答え合わせをするように、スペックや説明書きを確認したりしながら予想通りのもの、期待通りのものを飲みたくなるのは今の状況に疲れ切っているからなんじゃないかとも思ったりもするのです。

何の前触れもなく底の見えない谷へと突き落とすような暴力的なものは勘弁してもらいたい。打ちのめされるのは疲れる。すでに傷ついているのだから、もう傷口を広げるようなことはしないでくれ。そう誰しも思うことだろう。しかし、たとえ救いようのない物語であったとしても、それを受け止めることである種のカタルシスが内側に生まれるような気がしてならないのだ。

結局、私の心が未熟すぎてうまく言葉にすることが出来ずにいます。圧倒的な凄さだったとしか言いようがない。打ちのめされるというのはこういうことか。とにもかくにも凄かった。凹まされたけど、出会えて良かった。ありがとう。

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ルックバックが書籍化するちょっと前、私はTired Hands BrewingのOurisonというビールを飲みました。

 

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結局、私の心が未熟すぎてうまく言葉にすることが出来ずにいます。圧倒的な凄さだったとしか言いようがない。打ちのめされるというのはこういうことか。とにもかくにも凄かった。凹まされたけど、出会えて良かった。ありがとう。