カクヤスのIRが示す2020年のお酒消費

突然ですが、上場企業に酒屋さんがあるのはご存知でしょうか?酒造メーカーではなく、酒屋です。あまり知られていないかもしれませんが、東証二部にカクヤスが上場しています。カクヤスは東京、横浜、大阪を中心に展開している酒屋さんで、トレードマークのピンクの看板を見たことがある方も多いのではないでしょうか。

カクヤスは街の酒屋さんとして認識されていると思いますが、実は日本最大手の業務用酒販店でもあります。料飲卸と言いますか、レストラン、バー、居酒屋をはじめとする各種飲食店にお酒を販売、配達しているのです。同社の事業案内を確認すると、売上の70%以上が業務用で構成されています。店舗での販売よりも、黄色い幌のかかったピンクと白のトラックで飲食店に配達しているお酒の方が多いのです。

さて、そんなカクヤスですが、上場しているのでIR(Investor Relationsの略。インベスター・リレーションズ)を随時発表しています。株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績の実績・今後の見通しなどを公開しているので私は毎月市況を確認するためにチェックしています。カクヤスは日本最大規模で飲食店へ納品しているのでこの数字は市況を正直に表していると考えられるからです。

で、最新版が衝撃的なのです。4月7日、2021年3月の月次報告が出ました。いつもは昨年同月比のみで比較していますが、今回は昨年の緊急事態宣言発出による飲食店の営業中止等の特殊な事情もあったので一昨年の実績も併記しています。

売上高に関して家庭用、すなわちお店で購入して家で消費する形では通期で119.6%と家飲み需要の盛り上がりを反映した数字で、昨年を大きく上回って着地しています。しかし、業務用が通期で53.4%と悲惨なことに・・・以下にIRに掲載されているグラフを引用しますので見てみましょう。


株式会社 カクヤスグループ 月次報告(2021 年3月度)

3月を期首として青線が2019年各月の実績を100としたもので、緑が2020年度実績を前年同月比、ピンクが2021年度と前々年同月比を表します。昨年同月比ならば71.1%となるのですが、コロナ前の2019年と比較すると51.4%。厳しいとは思っていましたが、実際数字で見るとかなりの衝撃です。外飲みでのお酒の消費はコロナ前の約半分に減少している。

新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置が全国各地で出され、東京では4月12日から1ヶ月間飲食店の営業時間を夜20時までにするよう要請されます。またもや営業時間が短くなり、お酒を提供するお店にとっては厳しい状況が続きそうです。

営業時間短縮はお酒の消費減少、お店の売上減少だけが問題ではないと私は考えています。シーン全体を眺めた時にクラフトビールにおいて飲食店は極めて重要な役割を担っているからです。以前、外飲みで不味かったら瓶や缶は買わないという文章でも書きましたが、外食での飲用体験があってこそブランド認知が高まり、瓶や缶の購買に繋がります。酒屋やスーパーの店頭で手に取ってもらうには飲食店で経験が先にあった方が良い。数多ある中から最終的に選ばれるには「あぁ、この前飲んだあれは美味しかったなぁ」とか「そうそう、このブランドのものは美味しいんだよね」という体験が大事なのです。7割の家庭用の部分を伸ばすためには3割の業務用で存在感が無くてはならない。

ものすごく簡単にまとめると「外飲みで美味しいという感動体験が無かったら、スーパーや酒屋で瓶や缶も売れていかないよ」となるのですが、飲食店を取り巻く状況は依然として厳しく、ビール祭りも軒並み中止になっていてあまり明るい話題がありません。外飲みの機会が持ちにくい今どうしたらクラフトビールとの繋がりを保ち、そして発展させることは出来るのだろうか。また、未だクラフトビールと接点の無い方に親しんで頂くきっかけを持ってもらうにはどうしたら良いのか。そんなことを最近何度も考えます。明確な答えはまだ無いのだけれど、考えることをやめてはいけないような気がする。