日本にも「クラフトビール」(地ビール)を定義している団体がある

いきなり本題です。実は日本にクラフトビールを定義している団体があるって知っていましたか?

全国地ビール醸造者協議会(JBA)という、日本全国のビール醸造会社が加盟する団体があります。こちらは全国地ビール品質審査会や醸造家向けの勉強会を主催したり、展示会出店を行ったりして品質向上・普及に関する活動を行っています。その全国地ビール醸造者協議会が下記のように「クラフトビール」(地ビール)を定義しているのです。まずこちらが定義する前提となるものです。

1994年4月に行われた酒税法改正で、ビールの年間最低製造数量がそれまでの2000キロリットル(大びん換算で約316万本)から60キロリットル(同 約9万5千本)に大きく引き下げられました。それまで、日本のビール製造は酒税法という法律で、相当な量(年間2000キロリットル以上)を生産・販売することができる大手メーカーにしか事実上認められていませんでしたが、この法改正により、小規模な事業者もビールを製造することが可能になったわけです。
この規制緩和により、全国各地に少量生産の、いわゆる「地ビール」が続々と誕生しました。
この酒税法改正後に誕生し、個性あふれるビールを少量生産するメーカーのビールを「クラフトビール」(地ビール)と言います。

そして、条件は下記3点です。引用しておきましょう。

このことから全国地ビール醸造者協議会(JBA)では「クラフトビール」(地ビール)を以下のように定義します

1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
2.1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
3.伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。

これが策定されたのが2018年5月で、2019年4月現在、まだこれらを元にしたデータは発表されていないようです。これら定義を元に採取してまとめた統計データが今後出てくることを願ってやみません。

さて、ここで一つ考えてみたいことがあります。「そもそも、定義をする必要があるのか?」という話です。クラフトビールとそうでないビールを区別しなくてはならないのでしょうか?どちらも同じ麦で醸された醸造酒であり飲んで美味しいことには変わりないわけですから、そこには何かしらの理由がないとおかしい気がします。

CRAFT DRINKSが考えるに、一つの理由はこういうことではないでしょうか。以前書いた「シーンにとっての統計的クラフトブルワリーの話」から引用します。

定義を作ると分類が出来るようになります。そして、分類出来ると統計を取ることが出来ます。その結果、マーケットや各プレイヤーの動向、時代の流れなど過去を整理することが出来、現在と未来についてデータに基づき科学的に考察することが可能となります。この点は極めて重要ではないでしょうか。CRAFT DRINKSとしては「飲み手にとっての感情的クラフトブルワリー」と「シーンにとっての統計的クラフトブルワリー」はきっちりと分けて考えるべきだと思います。

これは昨年私どもが大学院で講義した時にお話した概念のベースの一つになる考えなのですが、ビールを単に個々人の嗜好品ではなく経済活動の一分野と捉えた場合に絶対に必要な作業であると考えます。

ビールという飲みもののことを考えた時に日本で消費される99%が大手のものです。現在クラフトと呼ばれているものは残りの1%で、ビール及び発泡酒の製造免許を保有する免許場の課税出荷数をまとめてデータ化してしまうと大手と一緒になってしまいます。そうなると小規模醸造所は最早誤差です。ビールの全国的な流れは見えますが、小規模醸造所の動態は区別できないために全く拾うことが出来なくなってしまう。結局経験と勘、肌感覚だけでシーンを捉えるしかありません。それでは産業としてのビールは強くなれないので、定義は必要であろうと考えるのです。

正直なところ、この話は一般の飲み手にはあまり関係ない。定義に沿った「クラフトビール」(地ビール)だからといって感情的もしくは官能的に美味しく感じるかどうかはまた別の話になります。「クラフトだろうがなんだろうが、旨けりゃなんでもいい」という方もいらっしゃるのも重々承知しています。嗜好品の最たるものであるビールはカジュアルだからこそ世界で一番楽しまれるお酒になりました。それ故、「クラフトビール」という言葉にたくさんの意味や思い入れが重なり合っていて非常に難しい。