知ってもらうということ

先日、とあるブルワーの方とこんな話をしました。

「コラボビール作るのも一つの方法かと思いますよ。出来るなら海外行って作っちゃえば良いんです」
「そのあたりのことを始めるにはまだ社内の体制が整っていないなぁ・・・社長やりながらブルワーやってますから」
「いやいや、ものは考え様です。醸造もマーケティングも全部自分独りで一瞬で決済出来るってことは最速意思決定ですよ。お役所みたいにハンコもらう必要がないし、足りない能力やリソースは外部に頼ればOKです」
「たしかにそうですね。それをやりたくてはじめたので!」
「ですから、”キャリアの棚卸し”をすることをオススメします!敏腕仲人さんがお嫁さん候補を紹介してくれても、”は?あんた誰?”ってならない為に客観的に”僕ってこういうビール作るのが得意で、それはこれくらい世間では評価されてるんですよ!”って言える何かがあった方が絶対に話が早い」

クラフトビールのことを「顔が見える」と表現する方もいらっしゃいます。造り手と距離が近いのも良いことの一つでしょう。であれば、ブルワーの側から自身のビールだけでなくもっとブルワリーの成り立ちやご自身の思い、今までの歩みについてもどんどん発信していって欲しいと思っています。なぜ開業したのか?とか、開業までにこういうキャリアを積んできた、とか。今までの修行先ではこうだったけれど、独立した今はこういうものを志向している、という思想のことも私個人としてはとても興味があります。

そういう情報がないと「これ初めて見るけれど、美味しいのかな?不味かったら嫌だなぁ・・・飲んでみようかな、どうしようかな」と決めあぐねている時困るのです。最後の一押しにそういう情報があると「あそこの醸造所の方が独立したところなのか!じゃ、期待していいな」と気持ちよく注文できるのではないかと思います。

ということで、ちょっと調べたら厚生労働省のHPにこんなものがありました。暇があったらちょっとやってみても良いのではないでしょうか。自分自身で気がついていない何かを見つける事ができるかもしれません。

話を戻しましょう。なぜこんなことを思ったのかというと、CRAFT DRINKS設立当初「異業種交流会」に行った経験からです。ああいう場所は仕事が欲しい人が集まるわけで、仕事を依頼したい人の集まりではないと一度行ってすぐに分かりました。ちょっと考えてみれば当然なので行かなきゃ良かったのですが・・・。実際、名刺をばらまき、名刺をたくさん集めたところで何も進展はありませんでした。知らない人の知らないプロダクトは普通買わないし、それがどんな品質のどういうものかを調べるのも億劫です。逆に、知っている人や知っているものに対してはその安心感から自然と前向きに検討するものです。始まる前に認識されていること、好感を持って頂いていることはとても大事なのだ。

たとえば、先週奈良醸造2ndバッチのセゾンを飲みましたが、とても美味しかったです。ブルワーの浪岡氏は随分前からの知人ですが、実は以前京都醸造のセカンドブルワーを務めていた方です。ベルギービールのニュアンスが京都醸造に多く見られることを知っていましたし、それらのビールに親しんできた私としては奈良醸造のセゾンを飲むことに全くためらいや心配はありませんでした。あぁ、Back To The Basicなのであり、ご自身のそういうキャリアと文脈があった上で更に解釈を進めて醸したセゾンなのだろうと想像できたからです。そして、その想像は全く間違っていなかった。

液体自体が不味くないのはもはや当たり前です。その液体がどういう文脈のもと、どういう立ち位置で誰によってどんな思いを内包して存在しているのか。きっとそういうことが感動を更にブーストさせるのではないかと最近つとに思います。

浪岡さん、ご開業おめでとうございます。奈良醸造のビール、これからも楽しみにしております。