クラフトブルワーを証明するシールを敢えて付けないスタンス

このシールのこと、覚えていらっしゃいますか?

クラフトブルワーを証明するシールという記事で上記のシールについてご紹介しました。Brewers Associationがクラフトブルワーなのかそうでないのかを明確にするべく作ったシールです。BAの定義に合うクラフトブルワーはそのビールに上記のシールを無料で付けることが出来、BAメンバーであるかどうかは問わないそうです。

これが今年の6月のことで、今現在どうなっているかというと・・・

なんと2700軒ものブルワリーが採用するまでになりました!BAの発表によると、全米のクラフトブルワリーの約半数が使用している事になります。このページでリアルタイムで数値が見られます。執筆時は2713軒でした。

さて、クラフトブルワリーを証明するシールでも指摘しましたが、大事なことなので改めて引用しておきたいと思います。

この発表を受けてThe High End、つまりABI側から声明が出ています。動画がVimeoにアップされているのでご紹介しておきましょう。内容についてはBeer Street Journalの記事が文字に書き起こしてあるので分かりやすいと思います。日本語での情報はまだあまりなさそうですが、Business Insider Japanの記事が触れていますのでそちらも参照してください。

Six Viewpoints from The High End from The High End on Vimeo.

買収された醸造所の意見も出ていて、各人大事なポイントを押さえていると思います。ざっとですが、抜き出しておきましょう。ABI側の意見も納得のものばかりです。

①ロゴが品質などを表すわけではない
②(大局的に見て)ワインや蒸留酒などとビールは戦っているわけで、ビールの中で揉めている場合ではない
③(オーナーシップではなくて)ビールそれ自体について議論すべき
④パートナーの醸造所に投資することで雇用を生んでいるし、そういう意味でコミュニティに一番大きく貢献しているのはABIである
⑤買収前後で何も活動は変わっておらず、クラフトビール産業をサポートし続けている
⑥独立しているということは”インディー”なのだからロゴ無しでやっていくべき

このように色々な意見があるわけです。

さて、CRAFT DRINKSも関わるFull Sail Brewing(フルセイルブルーイング)は来年から正式輸入となりますが、このシールを採用していません。現地にお邪魔してスターバックスでコーヒー片手に副社長のマークさんと話していた時にこのことを質問しました。フルセイルは間違いなくクラフトブルワリーですが、そのスタンスとして「とにもかくにも品質が重要で、シールが美味しさや品質を担保してくれません。無関係です。ですから、このシールが消費者を混乱させる可能性があります。今のところフルセイルとしてシールを付けることは考えていません。(シーンの状況も考慮して)今後は分からないですけれど。」なのだそうです。なるほど。このシールが飲み手の間でどのような認識になるかまだはっきりしない状況ですから、全米の半数が使用していたとしてもフルセイルは「クラフトブルワーを証明するシールを敢えて付けないスタンス」を貫いているのです。

なんだかこう、イデオロギーというか、思想の問題にだんだん近づいてきている気がしていて、本質的に大事なこと、つまり「美味しいビールであること」が置き去りにされてしまうのではないだろうか?と遠く日本から思ったりするのです。その意味でフルセイルのスタンスは好感を持ちます。大きな流れに乗れば良いわけではなくて、主体的に、自身の信条をちゃんと持った上で選ぶというメッセージがあるように感じるわけなのです。

物事は複雑で、シンプルな仕組みで動いているわけではありません。1つの事象に対して色々な見方や考え方があってしかるべきで、それを議論できる場やメンタリティがあるということこそ大事ではないかと思います。たとえばビアスタイルの多様性を論じるweb記事なども多いですが、それに終止していては進みません。その多様性を許容し積極的に愉しんでいる人間の心の在り方も一緒に論じられても良いのではないかと考えます。極めてCRAFT的な精神性の1つではなかろうかと思うのです。