【論点】ちょっと試飲してもいいですか?

ポートランドに行った時、入ったパブでメニューを見ながら「どれにしようかな?」と悩んでいると「ちょっと試してみますか?」などと優しく声をかけてもらうことがありました。キーケグ本社を訪問するためオランダに行った時もそうで、海外では結構「飲食店でビールを試飲してからオーダーを決める」というのはよくある光景のようです。先日の投稿でもご紹介しましたが、消費者側もそういうスタンスでいるようなので”Can I take a sip?”という形で試飲を求めることも普通にあります。

よくよく考えてみると、日本のビアパブでそういう光景を目にしたことがありません。ビールに限った話ではなく、ウイスキーを主に扱うモルトバーやワインバーなどでもそうではないかと思います。この違いはなんだろう?と疑問に思い、仲間内に質問してみました。その回答が非常に興味深いのでまとめてみたいと思います。なお、発言者の個人情報を公開することは出来ませんので伏せた形でご紹介致します。

質問:日本で「ちょっと試飲してもいいですか?」とビアパブで言ったらどうなるでしょうか?

関西・ビアパブ ご用意します。

関東・ビアパブ 無条件で出します。自分がどう思うか、グラスの大きさでどう変わるか、時間が経つとどう変わるかも添えて。「ちょっと試飲させて下さい」はプレゼンの絶好のチャンスですから。自分達のスタンスに触れてもらえる機会という意味では店側にとって試飲はプラスでしかない。

中部・ブルーパブ 税金含め原価が違いますし、試した後に飲む量もアメリカとは違うので厳しい気がします。北米に行った際は現地で良く言ったけれども、多くのお店は快く出してくれましたね。 でも日本の提供側に回ってみると厳しいかなと思います。昔日本で「ちょっと試飲良いですか?」って言ったら断られて「なんで?それ位良いのに。」と思ったけれど、今は断った理由が分からなくもない。グラス洗浄なんかの手間も増えますからね。

関西・ビアパブ うちのお店は出します。無論出せないと断る方がトータルの収益は上がるのでしょうが、今のところは出してあげています。そのお店がやっていなかったとしても、正直に「すみません、試飲はやっていないんです」と丁寧に言ってくれたら一人の消費者として嫌な気はしないですし、「そうですか、わかりました。」となると思います。

東北・ビアパブ 当店では「あれもこれも」となるのが怖くて、試飲は出してませんと現状では断ってしまっています。

関東・ビアパブ もちろんお出しています!お客さんから試飲してもらったビールに関して反応を聞きたいですし、そこは大事だと思います。

関東・ビアパブ ほんの一口ではありますが、オープン当初からお出ししています。百聞より一口。そして、プレゼンテーションを添えて。そうすることで反応もわかりやすいですし、お客様のニーズが掘りやすくなりますから。決して安上がりではないドリンクなので満足感を持って帰って頂きたいと思っています。

関西・ブルーパブ 常識的な範囲であれば試飲自由です。メーカーなので ビアバーよりはコストも気にしなくていいので。

中部・ブルーパブ お店がパイロットショップ的役割もあるので、ボトル販売促進も兼ねてどんどん試飲してもらっています。試飲OKと明記してもいます。

関東・ブルーパブ 土地柄、外国人のお客さまも多いので立ち飲みスペースでは試飲可としています。一方で、クラフトビールにまだ慣れてない日本人のお客さまにはこちらから特徴を説明しつつ試飲をオススメする場合もあります。選んで頂いたその一杯で満足してもらえることが重要と思うからです。

関東・ブルーパブ 公にはしていないですが、ご要望あれば試飲可能にしています。試飲されたビールの感想をその場で聞けばお好みに近いものもご提案し易くなるので満足度向上にも繋がると思います。

ビールを提供する立場の方々の意見はこのような形でした。では、逆に消費者側から見た場合、どうでしょうか?同じ質問に対して頂戴した消費者側の意見も合わせてご紹介したいと思います。

関東・女性 よく行くお店は外国人が多いからか、試飲させてくれます。好みでないものをパイントで飲んで気分よくはなりませんし、好みのものを飲みたい分量で飲みたいですよね。

北陸・男性 パブで海外からの旅行者と思しき方が頼んでるのを見たことがあります。普通に出て来てましたよ。

関東・女性 試飲しているのを見かけますが、みんな外国人ですね。恐らく頼めばほとんどのお店が断らないのではないかと思いますが、日本の場合は消費者側に試飲してから飲もうと思う人が少ないのかもしれない。

関東・女性 よく行く地元のお店では、少量のサイズをメニューに掲載していましたが、最近それをやめたそうです。そればかり飲んじゃう人もいるからかな?プロの人はごく少量の試飲でも良いのかもしれないですが、私の場合は普通の量を飲まないと味が分からないと思っています。

関東・男性 もちろん忙しい場合は空気は読みますが、ハーフかパイントか迷うことが多いので試飲を出してくれるとありがたいですね。とはいえ、サービスだと思って試飲ばかり頼む人も世の中にはいると思いますので、言えばやってくれるけどおおっぴらにはしないくらいが丁度よいかと。

関東・男性 試飲だけで頼まない人もいそうなので日本ではあまりやらないのかなぁと思いますが、それは消費者の民度がまだまだだという事なのかもしれないとも思います。

関東・男性 私は店員さんから自然にやってもらってますね。お互いによく知る間柄のお店だからかもしれませんが。(私が)「好きかも」「そんな好きじゃないかもしれないけれど」という一言を合わせて頂くことも多いです。こちらの好みをわかってもらえてるという意味で、その日の1杯に繋がっても繋がらなくてもそんな接客のお店は更にリピートしたくなります。

この話は「試飲出来ることが正解で、出来ないことはダメだ」ということではなく、1つの思考実験として「なぜ外国では成立するのに、日本ではまだなのか?」を考えるきっかけにして頂ければと思います。日本にそういったマインドが根付かない理由や文化、思考の背景に目を向けて深掘りしてみるのも案外有益なのではないかと思うのです。