BREWDOGとDE MOLENが急成長を遂げた理由

Apr 24, 2017

先月オランダのキーケグ本社に伺った際のことです。ミーティングルームに通され、そこでマネージャーのロバートさんから様々なお話を伺いました。その中に非常に興味深いトピックがあったのでご紹介したいと思います。「BREWDOGとDE MOLENが急成長を遂げた理由」です。ブルワリーで働いていらっしゃる方には特に有益な情報だと思います。

日本にも輸入されていてお馴染みのスコットランドのBREWDOG(ブリュードッグ)とオランダのDE MOLEN(ドゥモーレン)。これらの醸造所は毎年信じられないくらい伸びているそうです。その理由を聞くと、業務用の大樽を完全にキーケグに切り替えたからだそうです。

国内向けも輸出向けも全てキーケグにするとかなりのメリットがあり、導入すれば以下のものが全て無くなります。

  • ①ケグ管理コスト
    ②ケグ洗浄作業
    ③ケグ未返却リスク
    ④ケグの回収・返却コスト
    ⑤洗浄ミスによる汚染リスク
    ⑥機会ロス
    ⑦「直販のみ」という販売方法

順に細かく見ていきましょう。

①ケグ管理コスト
ステンレスケグを使用している場合、出荷したケグが返却されないと資産が減るわけですし、タンクに入っているビールをつめることが出来ません。夏場になると「充填したいのでケグを返却して下さい」というブルワリーの叫びをよく聞きますね。どのケグをどこに出荷したかを管理しないといけないわけですが、ケグは1個や2個ではありませんので非常に煩雑で手間がかかります。しかし、キーケグに切り替えればそれも無くなります。そもそもケグの個別管理という概念が無くなるわけですから。「直接売上を発生させない作業なのでゼロに出来るならゼロにしてしまうべき」という合理的な考え方を彼らは持っており、それを実行したおかげで飛躍的に伸びたわけです。

②ケグ洗浄作業
無事返却されたケグであってもそのままビールを詰めることは出来ません。一度きれいに洗浄してから充填します。ただ、この作業もなかなか大変です。洗浄機があっても人が付きっきりでないといけませんからその間は何も出来ません。大量に行うならばそれこそそれだけで一日費やしてしまう。これもやはり「直接売上を発生させない作業」ですし、洗浄機のランニングコストがかかるので無い方が良いものの一つということになります。

③未返却リスク
近場の馴染みの飲食店には随時配達・回収ができるので空になったステンレスケグの回収率100%という醸造所は多いでしょう。しかし、遠方はどうでしょうか?海外への輸出の場合は?未返却リスクを考えるとステンレスケグは大分不利です。結構な損が出る可能性が極めて高い。で、ワンウェイケグを遠方や輸出用に導入して併用しようと考えるわけですが、そもそも併用するくらいならBREWDOGとDE MOLENのように全部まとめてキーケグにしてしまった方が楽ですね。非常に合理的。

④ケグ回収・返却コスト
空になったステンレスケグの回収率100%であったとしても、回収に行かねばなりません。遠方からは返送してもらうことになりますが、それにも当然配送料がかかります。コストがかかるということです。しかし、これもワンウェイのキーケグであればゼロになります。送りっぱなしでOKですから、そもそも返却という概念が存在しません。

⑤洗浄ミスによる汚染リスク
上記②でも指摘しましたが、洗浄作業自体が無くなります。キーケグは滅菌された状態で納品されますので予備洗浄も要りませんし、再利用しないワンウェイケグです。となれば、洗浄不足やミスによる雑菌汚染などのリスクがそもそも存在しないことになります。ラクトバチルスやブレタノマイセスなど、特殊な酵母を使用したとしてもケグを介して次のビールに影響を与えることが一切無くなります。

⑥機会ロス
たとえば輸出オファーがあったとしても、輸出用にビールを準備して詰めていたら出荷が大分先になってしまう可能性があります。国内であってもケグが返却されていなければ充填すら出来ません。しかし、キーケグに完全に切り替えるとそのような場合にもスピーディに安心して対応出来ます。キーケグを在庫しておけばケグの返却を待つ必要はありません。元々出しっぱなしで良いキーケグであれば現状の在庫や充填スケジュールに沿ってそのまま輸出に回せば良いだけです。「どこに出荷するにもキーケグに一本化」したことによってフレッシュなものをどんどん出すことが出来、事実BREWDOGとDE MOLENは輸出で爆発的な伸びを見せています。

⑦「直販のみ」という販売方法
この部分が実は非常に重要です。ステンレスケグの返却を不要とすると、物流の観点からいわゆる「卸売り」が簡単に出来ることになります。今まで直販だったからステンレスケグの行き先を把握出来ていましたが、顧客数と醸造量が上がっていくと直販だけではバックオフィスも醸造サイドも手一杯になってしまいます。出入金確認も個別の出荷作業もこれらに比例して増えるからです。しかし、「卸売り」をすると問屋・酒販店から先は全く分からない。返却して欲しくても問い合わせられないわけですから、悩ましい問題です。そこでキーケグの登場です。先述の理由から一定以上の大きさになるとぶち当たる壁が「卸売りをするかどうか」なのですが、キーケグなら全て解決。納品しても返却する必要がないのでブルワリーは醸造に専念できます。営業・販売行為は問屋・酒販店に任せれば良いし、お金のやりとりも大分簡素化されます。生販三層の仕組みに沿った方が展開のスピードや物量が上がりますから、状態良く流通出来るのであれば「卸売り」は絶対にするべきです。「生産」・「営業・販売」・「回収」という3点のうち後者2つを問屋・酒販店に担ってもらえれば、ブルワリー本来の仕事である生産に注力出来ます。

さて、BREWDOGとDE MOLENが急成長を遂げた理由を見てきました。キーケグへの一本化によってかなり業務コストが削減されます。それによって浮いた時間や人手を彼らはどこに割いているかというと、たとえ新商品開発やwebやイベントでのプロモーションや、新規卸先開拓営業、直営パブ経営などです。外部に委託できる機能は委託し、自分たちにしか出来ないことを突き詰める。そして、その結果ぶっちぎりの品質とブランドを確立する。キーケグというパッケージを導入することで生まれるメリットは計り知れません。

一点だけ補足です。
日本の小規模醸造所の場合デポジット(ケグの保証金)を取っているところが非常に少ない。ケグを醸造所に返却すると返ってくる一時預かり金のことですが、これがあると確かに精算が煩雑になります。今のところ目の届く範囲に出荷しているので、不要かもしれません。ちゃんとケグが返ってくるのですから無い方が良いのはよく分かるのです。しかし、ゼロ円のものを人はそんなに大事にしない。残念ながら、自分のお財布が痛まないものは結構ぞんざいな扱いをするものです。クラフトビールが流行するに従って、色々な人が使うようになり、醸造所とのエンゲージメントも以前ほどではなくなってくる可能性も大いにあります。輸出など始めたらますますそうでしょう。性善説では対応出来なくなってくるわけです。BREWDOGとDE MOLENのキーケグ導入の裏にはそんな発想がもしかしたらあるのかもしれない、そんなことをふと思いました。

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