「商品名=ビアスタイル名」問題

いきなりですが、上記の通り「商品名=ビアスタイル名」問題が今のシーンにはあると思っています。「今飲んでおくべきビアスタイル5種」なんてタイトルの記事がよくあって、「商品名=ビアスタイル名」のものが紹介されていることも多いです。個人的にはもう勘弁して下さいと思っているのです。理由は大きく3つです。

①ビアスタイルとは倣うべきものではない
ビアスタイルなどというものは「いい意味での後付け」です。それに従わないといけない、なんてことは一切ありません。「すごく美味しいのだけれど、既存のビアスタイルにはどうにも当てはまらないなぁ。ま、いっか、美味しいし」という発想が大事であって、「既存のスタイルに合致するように作ろう、決められた範囲に収まるようにしようと考えているのだなぁ」と思わせるネーミングにするのはもったいないと思うのです。その名前だとレジェンドクラスのビールの模倣をイメージされてしまうわけで、クリエイティヴな何かではない。だったら、典型とされているレジェンド級の本物を飲めば良いのです。美味しいなら好きに作ってもらった方が楽しい。スタイル名は使わずに、名前も好きに付けて欲しいです。完全にオリジナルなものなのだから。

②特定のビアスタイルに合致していない≠美味しくない
ここは大いに勘違いされているように思われます。特定のビアスタイルに合致することと美味しいことは本質的に関係ない。たとえば、どこかの醸造所が「なんちゃらベルジャンゴールデンストロングエール」という商品名のものを作ったとしたら、消費者側はデュベルっぽいものを想像するでしょう。ベルジャンゴールデンストロングエールといえば、やはりデュベルですから。飲んでみてデュベルっぽくなかったら「あれ?なんだか違う気が・・・」と思う人も多いでしょう。現在の日本においてはビアスタイル名を商品名にしている場合も多く、想像と違うと評価が下がるような認識の流れが強いように思われます。それは変です。
逆も同様で、「特定のビアスタイルに合致している=美味しい」と判断するのも変です。飲んだ本人が美味しいと感じれば間違いなく美味しいわけで、そこにスタイル云々は関係ないと思います。

③その為、まだビアスタイル名が付いていない新しいフィールドを開拓したビールが評価されない
以前、外部に寄稿した際にドゥランク醸造所のNoir De Dottignies(ノワールドゥドティニー)というビールをご紹介したことがあります。こちらは生ホップをたっぷり使った、しっかり苦いベルギーのスタウトです。一般的に知られているビアスタイルにはどうにも合致しません。ホップ苦い、高アルコールのベルジャンスタウトなんて今まで知られていなかったのですから。飲んで美味しいことが大事なので、既存の枠組みから外れることが悪いことではありません。個人的には冒険してくれた方が面白いとすら思います。新しいフィールドを開拓したものは絶対に既存のビアスタイルから逸脱しているはずで、そのフィールドにはまだ名前がありません。「ものすごく美味しいのだけれど、まだ名前の無い何か」で、それを面白がれるかどうかという受け止め方の話にもなるわけです。その時、ビアスタイル名は認識の邪魔になる可能性が高い。

一度ビアスタイルを俯瞰したら忘れてしまえば良いと思うのです。今のシーンにおける分け方、線の引き方を理解することは重要で、まずはそこから始めるべきでしょう。しかし、最終的には飲んで美味しい、楽しいことが大事なのですから、合致しているとかどうとかはそれほど問題にならないはずのことだと考えます。頭で飲むと疲れますからね。飲めば分かります。無理して名前にビアスタイル名をつける必要はないと思うのです。