飲みにくくて美味しい

お酒に携わっていてずっと疑問だったことがあります。「飲みやすくて美味しい」とはどういう意味でしょうか?

webや雑誌でも「飲みやすくて美味しいお酒」の特集がたくさんあります。お店で飲む時も「何か飲みやすいのください」と言う人をたくさん見てきました。「飲みやすくて美味しい」というセリフはよくありますが、逆に「飲みにくくて美味しい」とは聞いたことがありません。日本人は「飲みやすい」ものが好きなのだなぁとなんとなく思いますが、そもそも「飲みやすい」って一体何でしょうか?

今まで見聞きしてきた経験から考えると、こういうことではないかと思うのです。

  1. 度数が高いと飲みにくい→度数が低いと飲みやすい
  2. 濃い味わいだと飲みにくい→味がない、もしくは薄いものが飲みやすい
  3. 個性や癖が強いと飲みにくい→無個性なもの、癖のないニュートラルなものが飲みやすい

今自分で箇条書きにしてみて気がついたのですが、これらは「美味しい」とは関係ないような・・・ふとそんな気がしてきす。「飲みやすさ」と「美味しさ」はイコールではなく、全く独立しているのではないか?という仮説が湧き上がってきました。

ここで4つのパターンを考えてみます。

  1. 「飲みやすい」×「美味しい」
  2. 「飲みやすい」×「マズい」
  3. 「飲みにくい」×「美味しい」
  4. 「飲みにくい」×「マズい」

4は単に不快なだけなのでどうしようもない。ほおっておきましょう。上述の条件を当てはめると、2は「度数が低くて味が薄くて無個性でマズい」ということになります。これも救いようがないですね。忘れましょう(笑)

問題の1と3です。1は「度数が低くて味が薄くて無個性で美味しい」、3は「度数が高くて味が濃くて個性があって美味しい」となります。

あれ?

3の方がいい感じに聞こえる・・・少なくとも、度数のことは抜きにして「味が薄くて無個性で美味しい」、「味が濃くて個性があって美味しい」とすると、圧倒的に後者が良さそうです。

たとえば、ピートを効かせた煙臭いアイラ島のウイスキーは最低でも40°で味が濃く、非常に個性的です。そして、とても美味しい。ラフロイグはソーダ割りなんかにしても最高です。クラフトビールでもIPAを更に強くしたDIPA(ダブルアイピーエー)やIIPA(インペリアルアイピーエー)には同じことが言えそうです。よく出来たセッションIPAも間違いなく美味しい。この手の例を挙げればきりがないのでやめておきますが、おそらく「飲みやすさ・飲みにくさ」と「美味しさ」はイコールではないし、関係ないのでしょう。それぞれ全く違う概念で、一緒にしてしまうからややこしい。「飲みやすさ」は「美味しさ」ではないのです。

「飲みやすくて美味しい」という言葉は、バラエティ番組によくある食べ物レポートの「柔らかくて美味しい」に通じるものがあるように思います。とりあえず柔らかく仕上げて「とろけるぅ」と言っておけば良いのですね、そうですか。豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえ!!(笑)21世紀なのですから、そういうテンプレート化して陳腐になったセリフは捨ててしまいましょう。「飲みやすさ」は「美味しさ」ではないのだから、「飲みにくくて美味しい」という表現がちゃんと理解され、それが最大の賛辞になるといいなぁ、とアイラウイスキーも大好きな私は思ったのでした。

最後に一点追記。「飲みやすさ」と”drinkabilty(ドリンカビリティ)”は全然違うニュアンスだと私は思っています。折を見てこのことも書きたいと思います。