クラフトビールが流行ると、絵描きが忙しい

「風が吹くと桶屋が儲かる」と言いますか。「クラフトビールが流行ると、絵描きが忙しい」のです。醸造所が忙しいのではない、というのがポイントですね。

昨年末、こんな記事を読みました。デンバーポストの”The art of selling beer: Catch the eye, but deliver on image’s promise”と題されたものです。最近ビール醸造所がどんどんパッケージをリニューアルしていて、グラフィックデザイナーが忙しいようで。クラフトビールファンは「一度は飲んでみたいが、常用することもない」という傾向があるとか、中身で勝負だけれど外見も大事だとか、インパクトのあるラベルで他のものより目立たなくちゃいけないとか、ラベルのテーマでブランディングを図り消費者とのコミュニケーションをうんぬん・・・マーケティング的な話が延々続くので興味のある方はリンクを全文お目通しください。このブログではここでやめておきますが、ふと「中身と外見」のことをそろそろ考えた方が良いと思ったのでした。

こういう話題が出るということは、「どんなビールでもそこそこ美味しいこと、低品質ではないことが担保された世界に近づいている証拠」なのだと思います。アメリカでは過去最大の醸造所の数となり、すでに4000軒を超えました。今やクラフトビールは一大産業です。それだけクラフトビールは美味しくて需要がある。酒屋さんやスーパーマーケットに並ぶ商業ビールはどうしようもなく不味いものはなく、だいたい平均点には到達しているに違いない。

「ビールの物流 コモディティとしてのビール」という投稿でも指摘しましたが、クラフトビールとは「脱コモディティ化を目指すビール」と定義することも可能でしょう。一定程度の品質が保証されているという前提条件があれば、クラフトビールはコモディティ化しないように価格で勝負しない方向に進むはずです。たとえば、「ビールの個性」、「商品の評判」や「レア度」などに移っていきます。その一環で差別化ポイントとして「ラベルの面白さ」や「目立つデザイン」が注目を浴びてくるわけです。ずらっと棚に並んだ中でも目を引くものにするため、クラフトビールが流行ると絵描きが忙しくなる。つまり、ビールの中身が最も大事なのは大前提ですが、品質において差別化の難しい世界では「見た目」が新たな競争のフィールドになる。これは成熟クラフトビールシーンに向かう中の一つの段階なのだと思った次第です。

・・・小難しく書いてしまいましたが、要するに「ジャケ買いで失敗しなくて済むクラフトビールシーン」が近づいているということですね。素直に「いいなぁ」と思います。