
ビールにおける透明性と真正性に関する一考
企業や製品の透明性が求められているのは多くの方が気がついていることだと思います。製品がどこでどのように作られるか、製品が供給源から消費者までどのように届くかについて注意が払われていいて、そこに妥当性がなければ批判の対象にすらなります。近年盛んに言われるフェアトレードもそうした思考の一環だと考えられます。
ビールももちろん例外ではありません。AB InBev adds ‘US farmed’ labels to some of its beersという記事で興味深いことが指摘されているのでご紹介したいと思います。
このラベルはアメリカ農地トラストによって作成されたもので、パッケージ食品や飲料製品向けの「Made in USA」ラベルと同等のものになると期待されている。(中略)このラベルを取得するには、水、包装、ラベルを除く製品内容物の重量の少なくとも95%が米国で栽培されている必要があります。さらに、その表示内容はアメリカ農地トラストの認証委員会によって検証される必要があります。
ブッシュライト、バドワイザー、バドライト、ミケロブウルトラの缶に採用されると見られています。「Made in USA」ラベルを削除したものは売り上げが下がり、「Made in USA」ラベルが付いた商品の方が高値で売れたという研究結果も出ているそうです。要するに、真にアメリカ的なものはアメリカの原料で出来ているべきであり、そう証明されていれば消費者に評価されるということだと思います。
ここで現代ビールビジネスについて考えてみましょう。インベヴやハイネケンはもちろん、大きなクラフトブルワリーも世界に展開していますが、いちいち本国から輸出したのではコストが高すぎて割りに合いません。よって、買収、もしくは事業提携している現地法人の醸造所でライセンス生産をし、当該国および周辺国に商品を供給するというのは経済性の観点から妥当であり、事実よくある話です。
たとえば、日本で売られているヒューガルデンやバドワイザーはインベヴ参加の韓国企業・OBビールの工場で作られています。スコットランドのBREWDOGの一部商品はアサヒビールが国内製造しているし、アメリカのブルックリンのものもキリンが日本で作っているものです。こうした例は枚挙に暇がありません。
ブランドと国のイメージについて考えねばなりません。韓国製のヒューガルデンはどこのビールだと考えれば良いでしょうか?生産国に注目して韓国のビールと言うことも可能ですが、ヒューガルデンはベルギーのブランドであるのでベルギーのものだとも言えそうです。これまでは後者のブランドの権威に対して私たちは重きを置いて考えていたような気がするのですが、先述の記事にある通り、その意識は少しずつ変化しているのかもしれません。アメリカらしいアメリカのビールはアメリカで作られていることが望ましいのであり、ブランドと原料の出自も含めた生産地の一致に本物であること、つまり真正性を認め、それを高く評価するようになっているのではないでしょうか。
ワインの原産地呼称はもとより、近年業界団体によって制定されたジャパニーズウイスキーのルールなど、こうした場とブランドに関して透明性と真正性を示すことが消費者利益に叶うと考える傾向は近年顕著です。ここまで論じてきたことを私は一定程度妥当性のあるものだと考えるけれども、この流れがクラフトビールにもやってくると考えて良いのかには一抹の不安が残ります。
長野県のヤッホーブルーイングの商品としてキリンの滋賀工場で作られたよなよなエールが流通していることはそれなりに知られていると思うけれども(いや、知られていない?)、「滋賀県産長野県ブランドの大手によるクラフトビール」という不思議な存在について本論の文脈に即した議論が為されているとは到底思えません。そもそも原料のほぼ全てを輸入に頼る日本ですから、上述の「Made in USA」同様の話は出来そうもありません。となると、今日本の人々は場とブランド、透明性と真正性についてどう考えているのだろうか。