コミュニティ内部の繋がりの強さ、弱さ クチコミについて

キリンビールが「クチコミで味わうビアバー」を期間限定でオープンするそうで。

キリンビール株式会社・株式会社ヤッホーブルーイング共同企画 渋谷に「クチコミで味わうビアバー」期間限定オープン!

Spring Valley Brewery クチコミで味わうビアバー

キリンビールは株式会社ヤッホーブルーイングと、初めてとなる2社共同イベント「クチコミで味わうビアバー」を2024年12月4日(水)~8日(日)の5日間、ZeroBase渋谷にて開催。資本関係のある2社が中心となって、それぞれの傘下にあるブルックリン、銀河高原ビールの製品も提供されます。

注目したいのは下記で、個人的には少々違和感を覚えました。

株式会社ヤッホーブルーイングの調査によると「クラフトビールを飲むきっかけの1位は“クチコミ”である」ということが分かりました。本イベントでは、事前に商品名を明かされない状態で、スプリングバレーブルワリー、ブルックリン・ブルワリー、ヤッホーブルーイング、銀河高原ビールの各ブルワリーが提供する全9種のクラフトビールの中から、それぞれの熱いファンによるリアルな“クチコミ”から飲みたいビールを選んでいただくという、クラフトビールならではの新しい楽しみ方を提供します。更に、イベントを体験したお客様からクチコミを集め、翌日に「とれたてのクチコミ」として掲示することで、それが次に来店されるお客様の選択肢の基準になるというクチコミの連鎖を生み出していきます。

クチコミが選択を左右することは間違いなく、クチコミをきっかけにビールを選ぶことは往々にしてあることだと思います。私自身も友人、知人の紹介で飲もうと思ったことはこれまで何度もあり、その結果も概ね良かったです。確かにクチコミは信憑性があり、信じるに足るものだというのは多くの方が実感しているところでしょう。但し、「信じるに足るクチコミが存在する」と「クチコミは信じるに足る」はイコールではないということには注意したいところです。

ここで考えてみたいのは「そのクチコミの発信者とその人との距離感やつながりの強さ」についてです。上述の通り、私はクチコミの効用を実感しています。しかし、それは直接会ったことがあって、クラフトビールに対して積極的且つ経験も豊富な方であるのが分かっているという前提が存在します。もう少し細かく言えば、その方がどういうものを高くもしくは低く評価するかという傾向、得意もしくは不得意な範囲などを知っていることも重要でしょう。

これを踏まえて考えると、名前も知らない誰かの感想を人はどれほど信用するかという問題にぶつかります。匿名で行われるSNSもあり、発信者が誰でその発言がどういう意図で為されているかが読めない状態では判断しようがありません。心の底から良かったと思っても、アフィリエイトでお小遣いを稼ごうと商品購入を後押しするとしても、その結果はどちらも褒めちぎることになるのですから。

上記引用で意図されるのは「知らない誰かとの弱いつながり」によるクラフトビール消費だと思われます。クラフトビールとのそういう付き合い方もあるでしょう。それは否定しません。しかし、逆の状態、つまり「知っている友達との強いつながり」を考えてみるとその方が私には良さそうに思えてくるのです。

ここで言う「知っている友達」とはクラフトビールに詳しい経験豊富な方ではなく、友達として親しいという意味ですが、そういう方との相互の信頼があれば選択の確度は高まるような気がしてなりません。直接会った時にたまたま「そう言えばさ、最近美味しいビールあった?」と聞いたら「うーん、XXXXが良かったかな」という答えが返ってきます。たった2行の短いやり取りなのですが、ここには相手の望む回答の予想や関係性の深さ、価格や入手可能性などが意識、無意識を問わず瞬時に計算されます。そうして親しさから派生する思いやりや助け合いの精神から生まれる言葉には信じるに足るものが宿ると思うのです。

普段はSNS上ばかりでなかなか会わないけれど、友達だと思える人もいますよね。やはり会った回数がゼロではダメで、少なくとも1回は必要でしょう。とはいえ、人間時と共に変化するもので一度出会った後ずっとオンラインで済ませると色々齟齬が生まれます。ビール祭りで年に一度しか会わなくても、いえ、年に一度だけでも会うことが大事なのです。

ちなみに、オードリー・タンは半年に一回が良いと言っていました。半年に一回だとコミュニティの規模はそこまで大きくないでしょう。けれども、日常の弱いつながりを維持するためには時折強いつながりを再確認する必要があるというのは納得です。

オードリー・タンとの対話#3 自分自身を「代表」すること | DISTANCE.media

世間の声を代表するアノニマスな呟きよりも、小さなコミュニティ内のアイツがしてくれたおすすめの方が乗っかってみる価値があるのではないかと思うのです。けれども、そういう強度のコミュニケーションが減っているのか、もしくは疲れるから避けているのかもしれないとも思ったり。クラフトビールという現象を支えるコミュニケーションの束はこれからどう変わっていくのだろう。