第6回読書会で読んだもの 振り返りと次回開催について

9月23日に第6回クラフトビール文献読書会を開催しました。3部制とし、2時間の枠を3つ設け議論したというのは前回までと同様です。イベントが多数開催されている3連休にもかかわらずご参加くださいました皆様、ありがとうございました。深くお礼申し上げます。

そこでの議論について少しご紹介しておきましょう。

第1部は前回同様ビブリオバトルっぽいことをしました。書評合戦というか、読んで面白いと思った本を持ち寄ってその素晴らしさをプレゼンして頂きました。

ちなみに私がご紹介したのは見田宗介氏の「社会学入門」です。ビールって社会的というか、Socialな飲み物だと思うんですよね。ビールというものは人が醸し、人が飲んで愉しむものです。人が複数いて関わり合えばそこに小さな社会が生まれます。個が全体に、全体が個に影響しあって世の中は動いていくので、クラフトビールなる現象にもそれが少なからず反映されます。そういう風に眺めてみると面白いことに気が付きます。

上掲の書籍は著者の研究の総まとめというか、そのエッセンスを惜しげもなく披露している贅沢なものです。一般的に言われる社会学というよりも、見田流社会学といった様相で様々なトピックを包含しているのですが、「理想の時代・夢の時代・虚構の時代」と分けて日本の戦後を検討する中で出てきた理想主義に関する部分が非常に興味深く、クラフトビールという現象を考えるにあたって利用できるのではないかと考えました。なお、太字は私が付けたものです。

「高度成長期」との関連で見ると、「理想の時代」は「プレ高度成長期」、「夢の時代」は「高度成長期」、「虚構の時代」は「ポスト高度成長期」に、正確に対応します。
現実との関わりということでいうなら、「理想」に生きようとする心性と「虚構」に生きようとする心性は、現実に向かう仕方を運転している。「理想」は現実化(realize)することを求めるように、理想に向かう欲望は、また現実に向かう欲望です。表現のさまざまな様式の歴史において、リアリズムという運動が多くのばあい、理想主義的な原動機にうらうちされていたように、理想の時代は、また「リアリティ」の時代であった。虚構に生きようとする精神は、もうリアリティを愛さない。二十世紀のおわりの時代の日本を、特にその都市を特色づけたのは、リアリティの「脱臭」に向けて浮遊する<虚構>の言説であり、また生の技法でもあった。

今の時代、私達には世の中を変える力がある!という考え方に駆動されるプロダクトアウトの理想主義的思想と、私達に世の中を変える力は無いので流れに合わせて最善を尽くすのが正しいという考え方の現実主義がせめぎ合っているように思います。クラフトビールに引きつけて考えると、クラフトビールで地域を良くしたり誰かの人生を変え、結果として世の中が変わる可能性はゼロではないのでそこに賭けて未だ見ぬ新しいものを創造していくのは非常にエキサイティングです。そういう理想に燃えるパワフルな動態を見せるクラフトビールがある一方で、ライバルの多い市場においてはトレンドを生み出すよりも後からそれに乗った方がコスパが良いので流行りの売れ線商品ばかりになります。最近は後者が強くなってきたように思うのは私だけでしょうか。クラフトビールに社会が映し出され、社会にクラフトビールが影響を与える、そんなことを考えたのでした。

第2部では国産原料について考えようと、契約取引データに基づく国内ビール麦生産の成立要因と課題という論文を読みました。現在、クラフトビールはアメリカンスタイル、特にIPAに牽引される形で進行しており、その中心にはホップがあります。ホップの国内栽培については多少情報が出ているけれども、モルトについてはあまり知られていないと思い今回取り上げました。

この論文からモルトスター(製麦工場)や産地の関係だけでなく、品質や収量など様々な課題があることが分かりました。食料安全保障の観点から国内自給率を上げていくことは大事ではあるけれども、米作との関係や交付金や関税割当などの制度によって栽培へのインセンティブが生まれたり生まれなかったりと、国産ビール用麦の生産はなかなか難しいようです。打開策を検討するにあたってはCraft Maltsters Guildやその地域支部の活動が参考になるかもしれません。

別の視点からも考えました。国産モルトの使用に関してブルワーはどう思っているのかという観点もありますが、国産モルトを使用したビールは消費者に何を示すのかという観点もあって然るべきでしょう。成分や仕込みやすさなど醸造に関するテクニカルな話ではなく、飲んで美味しいことに対して国産モルトがどのように寄与し、外国産とどういった差異を生み出すのか。今後こうした視点からの議論が生まれることを期待しています。

さて、続く第3部は「ビールにおける共創」をテーマとし、課題図書としてJstageに上がっている「企業の共創の進化 ― HOPPIN’ GARAGE の挑戦 ―」を扱いました。共創というとなんだか難しそうですが、取り急ぎ広く「コラボ」と捉えて頂いても問題ないでしょう。上掲の論文ではアブストラクトで下記のように示されます。

HOPPIN’ GARAGE の変遷を,1)自社顧客との共創,2)外部コミュニティとの共創,3)外部イノベーターとの共創,4)外部企業との共創,といった共創形態の変化に合わせて確認する。

上記課題図書を読んだ上で、①共創のメリットないし必要性は何か、また逆に②共創しないことよって生じると考えられるデメリットは何かを発表してください。これに加えて、③共創によって生まれるビール(広くコラボレーションビールと考えても結構です)のこれからについて意見を発表して頂きました。

自社だけでは難しい技術交流や知見の共有などがその効用として挙げられましたが、スマートフォン、SNSが普及した今、アテンションの取り合いという側面もあるように思われます。ここで具体名は挙げませんが、成功したと思われる事例はあって、その構造分析や再現性についても話は及びました。

さて、次回のご案内です。来月も読書会を開催予定で、これまで通り無料です。どなたもご参加頂けます。第7回は10月14日に行います。以下ご確認くださいませ。

3部制で各回参加自由です

12時〜、14時〜、16時〜の3部制で、それぞれ内容が異なりますのでご注意ください。

第1部は特別ゲストをお招きしての全員参加のフリートークです

以前から参加者の皆様からプロからお話を直接伺いたいという要望があり、初めて現役の醸造家の方にいらして頂くことになりました。今回お招きするのは醸造家・立花薫さんです。

立花さんはコロラド州立大学で醸造学を修め、オレゴン州にあるフォートジョージブルーイングで商業醸造に携わりましたが、コロナ禍で日本に帰国。帰国後はBlack Tide Brewingを経て現在Grandline Brewingにて醸造なさっている現役バリバリの若手醸造家です。参考までに以前取材した記事も読んで下さい

アメリカの大学ではビール醸造についてどのような教育がされているのか、アメリカのブルワリーでの仕事のこと、日米の違いなど伺いたいと思います。時間の許す限り自由に質問して頂いて結構ですが、参加申込の際に質問を事前に入力して頂けると助かります。下記申込みフォームからお願い致します。

第2部は「事前に読まずにその場で読んで議論をする」会です

主催者が用意した短めの文章をその場で読み、発表・議論をします。クラフトビール文献読書会とは(詳細版)で示した通り、うまく考えをまとめられなかったら一旦パスしてしても構いません。他の方の意見を聞いてから後で必ず発表してください。

今回はクラフトビールシーンにおける手詰まり感に関する文章を読みたいと思います。日本のメディアではクラフトビールが人気であることを報じていますが、外国では「ちょっとこのままだマズくね?」という論調が一部に出てきています。新興勢力によるブルワリーの買収や商品ポートフォリオの多角化などはその表れだと考えられます。日本でも遠くない将来そういうフェーズに入ると思うので今回皆さんと読んでみたいと思います。

第3部は「事前に読んで発表し、議論をする」会です

事前に指定された文章を読み、そこから読み取れたこと、読んで考えたことを発表して頂きます。その後、挙がった論点について更に議論して参ります。第7回読書会は「国産ホップ」をテーマとし、課題図書として遠野市におけるホップ栽培の展開と「ビールの里構想」の試みを読みたいと思います。

岩手のホップがこれまでどのような歴史的経緯で栽培されてきたかを確認し、現在行われている取り組みを確認します。それを踏まえた上で、①現状国産ホップの普及を妨げているものは何か、また②国産ホップに期待することを発表してください。これに加えて、③国産ホップを使用したビールの意義(どのような意味をそこに読み取るか、と読み替えて頂いても結構です)について意見を発表して下さい。正解があるわけではないので、ご自身の認識と思考のプロセスをお伝え頂けたらと思います。

ということで、こんな感じで第7回を行います。初めての試みもあり、ちょっとドキドキしておりますが…お越しくださいませ。お申し込みはクラフトビール文献読書会参加申し込みフォームからどうぞ。会のルールや申込み方法はnoteにまとめてあるのでそちらをご確認ください。皆様のご参加、心よりお待ち申し上げております。