低アルブームに伴って必要となる議論と制度、MUPに関して

イギリスで低アルコールビールがブーム、というお話です。

The Drink Business Boom in low-alcohol beers in UK

ざっくりまとめると、こんな感じです。

最新のデータによると、イギリスは昨年夏に導入されたアルコール税の変更を受けて低アルコール度数ビールの市場が最も急速に成長している国の一つとなりました。データ会社IWSRがフィナンシャル・タイムズに示した数字によると、低アルコールビールの販売量は2023年の65万ヘクトリットルから昨年はほぼ130万ヘクトリットルに倍増。全体として英国は低アルコールビールの世界第8位の市場となり、2022年の13位から順位を上げた。

背景にあるのは税率の変更です。このニュースは2023年8月の税制改革を受けてのもので、3.5%以下のビールは3.5%以上のビールよりも税金が低くなり、低アルコール飲料として分類されることになりました。大手ビール会社は新しい課税規則を回避するためにレシピを急いで変更しています。イギリスの業界団体によると、パブの大半(87%)が少なくとも1種類の低アルコールまたはノンアルコールビールを提供しているとのこと。

世界的な低アルコール需要の高まりは数年前から予見されていました。いわゆるビヨンドビールの流れでも注目されていて、インベヴなど世界の大手は2020年代中にビール消費の2割がノンアル、低アルになると予想しています。Z世代に顕著だと言われますが、ソーバーキュリアスな指向が市場で存在感を示してきたということになるのかもしれません。

この流れで恩恵があるのは大手だけではない、というのも押えておきましょう。拙著「サシノミ2」で取材したCAMRA会員の方によると、伝統的にパブで飲まれるイギリスのビールはアルコール度数の低いものが多く、大きな変更を伴わず税が安くなるそうです。これまでよりちょっと安く飲めて良いですね。

ただ、安くなるだけだと色々問題です。健康を害さない飲み方をしようという啓発活動も同時に行ってこそ、というものです。Drink responsively(同じ意味ですが、イギリスではDrinkawareという言い方をします)の推進はブルワリーや酒販店、それらの業界団体にとって社会的に要請されるものであり、また使命でもあります。消費者にも持続可能なお酒との付き合いが求められているのです。

安すぎるお酒はやっぱり問題なのかもしれません。減税による価格低下と消費者の意識改革が同時に行われないと持続可能なものにはならないでしょう。人の心というものは強くもあり、また弱くもあるので、ちょっと難しいかもしれないなぁ…と思わなくもありません。そういう心配の表れなのか、お酒の値段が下がらないようにしようという動きも見られます。同じイギリスのスコットランドではMUP(Minimum Unit Pricing、最低価格制度)が試験的に導入され、現在アイルランドなど他の国、地域でも導入の検討が始まっています。

お酒は健康のみならず広く公衆衛生にも関わるものと考えられているので、その取扱いについて性善説を採るのか、性悪説を採るのか。お酒の取扱いは国の制度にも関わることですが、私達一人ひとりが考えなくてはならない問題なのだと改めて思います。