新刊「クラフトビールを仕事にしたいと思った時の業界俯瞰図 20204年版」発表のお知らせ

今日は新しく仕上がった本のご案内です。「クラフトビールを仕事にしたと思った時の業界俯瞰図」を大幅加筆修正した2024年版を発表します。

お陰様で2021年にリリースした初版は合計4刷し、Kindleにアップしてからもかなり読んで頂き、恐縮です。日々勉強、研究と称して酩酊しているだけの私のような者が書いた文章を読んでくださる方がいるというのは本当に嬉しい限りです。心より御礼申し上げます。

さて、初版を発表した際にこんなことを書きました

メディアアーティストの落合陽一氏が10年後の仕事図鑑という本でこう語っています。

 

転移学習の必要性は日に日に高まっている。デジタル空間の中では転移学習が可能なはずだが、現状人間は、誰かが学習したデータを他の人からもらうことはできない。それゆえ人はムダを繰り返す。

 

一般に、目指すべきゴールが明確な場合は「ムダを繰り返す」だと断言して良いと思うけれど、そうでない場合は有意義な寄り道になることもあるよな・・・とも思います。とはいえ、趣味ではなく仕事としての活動においてはその通りだろう。地図があって、目的地までの道のりが可視化されているのであれば一直線に進むべきだ。寄り道している暇はない。

ポイントは「誰かが学習したデータを他の人からもらうことができない」という点です。攻殻機動隊の世界ならば電脳で全ての人が繋がって、得られたデータは瞬時に多くの人間に共有される。落合氏の言うことが実現しているのが草薙素子の生きる2029年だけれども、あと8年でそんな世界が到来するとは今のところ思えない。

 

一切劣化しない完全複製、つまりコピーこそがデジタルの本質だとするならば、対比的に私たちは生身の体から解放されることもなく、まだまだアナログのままであるということが強調されます。コピーしてインストールすることは出来ないから各人毎回ゼロから積み上げていかねばならないけれども、そのスピード如何によってはクラフトビールという荒波のパワーとスピードに耐えられず溺れてしまうだろう。いっぱい道草食っいても許してもらえるほど穏やかな世の中ではないと言えるかもしれない。先にあるものは上手に使うべきだというのは間違いないけれども、「先にあるもの」は諸先輩方の頭の中にあって学習可能な形でデータ化されているとは限らない。ここは大きな問題だと改めて思うに至る訳です。

 

クラフトビールを好きになって本気で仕事にしたいと考える方がいらっしゃることは存じ上げています。過去何度もそういう相談に乗ったこともありますが、クラフトビールの業界にどういうビジネスがあって、どう動いているのか、その中にどういうジョブがあるかということがあまり知られていない。業界に飛び込んでみたけれど、自分の希望と職業がマッチしていなかったり、予想もしなかったつまらないことで凹んだりしてその熱意や想いをシーンに還元できないようでは勿体ないと思うのです。クラフトビール業界と言えばブルワリーやパブが真っ先に思い浮かぶだろうけれど、その他にも色々とあってその関わり方は複雑だということはもっと知られるべき事実でしょう。

 

そういう意味でシーンの状況を産業、ビジネスという視点で一度俯瞰、概観しておくことは決して損ではないはずです。私の駆け出しの頃には無かったけれど、今も無いというのは流石に良くないのではないかと先述の大学生と話をして思ったわけです。私がその役割に相応しいのかどうかは分かりませんが、無いのだからとりあえずやってみようと筆を執りました。今どこまで来ているのか、どこまで広がっているのかを知るきっかけにして頂けたら嬉しいです。加えて、その中で自分をどこに位置づけようかと考える手助けになるならばこの上ない幸せです。

 

クラフトビールシーンは常に流転し続けています。だから、私が綴った事柄は綴ったその瞬間に過去完了形となり、永遠に「今」には追いつきません。この取組みに完成はなく、アップデートされ続けなくてはなりません。今回私の力不足でこぼれ落ちてしまった情報もあるでしょうから、ライフワークの一つとして皆様との対話を通じて改訂版作成を続けていきたいと思います。

基本的にこの考えは変わっておりません。クラフトビールが好きになって仕事にしたいと思っても大手ビール会社の情報しか無く、何とか業界に潜り込んだとしても適正にマッチせずに辞めていく方を何人も見てきました。ライフステージの変化や収入・待遇も勿論です。こういうミスマッチやキャリアの不安については数々の先例があるのだからそれを事前に知っておいたら回避出来るかもしれません。そんなことを思って書きました。

初版から3年が経ちましたが、コロナ禍を経て社会も様々な面で変化し、その影響はクラフトビールにも及んでいます。今回の改訂版ではその変化についても出来る限り記述したつもりです。新サービスも現れていますので重要だと思われるものについて新たに取り上げました。また、脚注を充実させ、可能な限り一次情報に当たって頂けるようにしています。

また、初版には無かった「商品としてのクラフトビール」について1章新たに追加し、「クラフトビールが売れるということ」について検討しています。仕事にする時、販売することに向き合わねばなりませんが、売ること、売れることは単純ではなく、非常に複雑なシステムが駆動した結果です。今回その全てを示すことは叶いませんでしたが、様々な角度から描き出そうと努めました。生産や消費の位置関係や価値、体験の質、真正性や情報の取扱いなど多岐に渡りますが、どれも重要なものだと考えています。

気が付けば初版の2倍以上の文量になり、9万字を超えてしまいました。かなりの大盛りとなってしまいましたが、ご覧頂ければ幸いです。

発表はコミックマーケットに合わせて8月12日なのですが、現在CRAFT DRINKSの本屋で予約を受け付けております。12日までにご予約頂ければ予約特典として送料無料とし、即売会会場と同額にしています。ご検討くださいませ。

以下、目次です。

はじめに 1
改訂をするにあたって 3

第1章 クラフトビールに携わろうと考えている方へ 4
1.クラフトビールは楽しい 4
2.クラフトビールはなかなか儲からないし、キツい 4
3.今なら変えられる、世界と繋がって働こう 5

第2章 そもそもクラフトビールとは何か? 7
1.アメリカの場合 7
2.日本の場合 8
3.様々な「クラフトビール」 9

第3章 クラフトビール業界の仕事を仕組みと機能で分類してみる 11
1.市場規模 11
2.日本におけるマーケットシェアとその数値の信憑性 13
3.ビールの流通形態 14
4.作る 17
5.流通させる 18
6.販売する 21
7.知らせる 24
8.周辺の関連産業 25
9.まだ日本にはほとんどないけれど、本来あるべき仕事 30
10.ウェブやクラウド、ITサービス 35
11.注目すべき事業の形態 36
12.業界団体 40
13.まとめに代えて クラフトビール業界のリアル 41

第4章 求められる人材と携わる前に知っておくと役立つこと 43
1.求められる人材 43
2.ビールに対する専門的学習 43
3.正確な一次ソースを取れるようにするために 英語 46
4.相対化能力、意識 50

第5章 商品としてのクラフトビールを考える 52
1.「まずはクラフトビールを知ってもらうことが大事」とは言うけれど 52
2.タップマルシェにおけるモノとお金の流れ 54
3.コモディティではない商品であるということ 55
4.角打ちと品揃えの良いコンビニエンスストア 58
5.直営店と商圏、客層について 59
6.実在庫の所在と欲求充足までの時間 62
7.フローとストック、新しさと価値 63
8.認知拡大とコラボレーションのシナジー 66
9.売れる前に作られるもの 67
10.言葉以外のコミュニケーション 70
11.通信販売小売免許、製造と消費の位置関係 71
あとがき 74

最後にもう一言だけ。クラフトビール を仕事にしたと思った時の業界俯瞰図 大盛り改訂版ですが、その表紙絵はご縁があって漫画家の米田和佐先生に描いて頂きました。深くお礼申し上げます。米田先生の手掛ける「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 失意の魔術師編」「私はご都合主義な解決担当の王女である」も是非。