Bell’s Breweryの買収話を耳にしてビール産業は複雑だと改めて感じる

先週予想もしないビッグニュースが舞い込んできてびっくりしました。キリンがアメリカのクラフトビール会社であるBell’s Brewery(ベルズブルワリー)を買収するそうです。私のSNSのタイムラインがこの話題で盛り上がっていました。クラフトブルワリーとしては全米7位の規模を誇る会社が買収されるのですから当然でしょう。

Ringing Out — Bell’s Brewery Sale Adds to Japan-Led Beer Collective’s Growing International Portfolio

上記Good Beer Huntingの記事がよくまとまっているので特に追記するべきことは無いのですが、この一報を聞いてビールとは本当に複雑な構造のビジネスなのだなぁと改めて感じます。「キリンがベルズを買収する」というのは事実なのでしょうが、ちょっと正確性を欠く表現に感じられます。実態は色々混み合っていて、名前が挙がっている会社それぞれの関係性をちゃんと理解しておく必要があると思います。一つずつ見ていきましょう。

①キリンとオーストラリアのLion(ライオン)

ビール関係者の方はLion Nathan(ライオンネイサン)という社名でご存知かもしれませんが、このライオンネイサンはライオンの子会社です。ライオンネイサンはXXXX(フォーエックス)を始めとする様々なビールブランドを所有していて、オーストラリアを中心に多数のクラフトブルワリーもその傘下に収めています。キリンはライオンネイサンの親会社であるライオンを買収しています。

余談ですが、オーストラリア最大のビール会社はCarlton & United Breweries(カールトンアンドユナイテッドブルワリーズ、略してCUB)ですが、アンハイザー・ブッシュ・インベブから日本のアサヒビールが買収しています。オーストラリアのビール市場はカールトンとライオンで大半を占めていて、実質的に日本企業が押さえている状態です。

②ライオンとLion Little World Beverages

次にライオンとLion Little World Beveragesの関係ですが、前者が親会社で後者がその子会社となります。同社はオーストラリアのLittle Creatures(リトルクリーチャーズ)などのクラフトビールブランドを所有する会社です。

③Lion Little World BeveragesとNew Belgium Brewing

2019年、Lion Little World Beveragesが100%株式を取得し、New Belgium Brewing(ニューベルジャンブルーイング)を買収しました。買収後もNew Belgium Brewingはそのまま操業を続けていて、販路拡大の恩恵もあってかVoodoo Rangerシリーズも好調。

④New Belgium BrewingとBell’s Brewery

前者の公式Twitterで「Bell’s Breweryが私たちの家族になってとても嬉しい」と発表しました。

実際にはLion Little World Beverages傘下で並列的に扱われると考えるのが自然だと思います。別のツイートで買収手続き終了後もNew Belgium Brewing同様これまで通り醸造していくとあり、代表的銘柄であるTwo Hearted IPAやOberonも廃番になることはないそうです。

今回はキリン・ライオンの話でした。アンハイザー・ブッシュ・インベブやハイネケンの話もいずれしたいと思いますが、何にせよグローバル展開するブランド、企業の親子関係は本当に複雑です。

さて、本件に伴い、日本にはどういう影響があるのか考えてみます。ポイントとしてはキリンの子会社が買収して傘下に収めるということで、キリンが直接買収したわけではないというところです。同じくアメリカのBrooklyn Brewery(ブルックリンブルワリー)は直接資本投入をしており、直接ハンドリング出来ます。故に、同社とのライセンス契約でキリンは自社の滋賀工場で製造して販売しています。一方、子会社であるライオンの傘下にあるブランド、たとえばリトルクリーチャーズは日本で流通していたもののキリンが手掛けておらず、アイコンユーロパブが輸入元です。現在取り扱いは無いようですが、フォーエックスも日本ビールが輸入していました。Bell’s Breweryは直接ではないにせよ実質的にはキリンのブランドになったのですが、間にライオンが入っていますし過去の事例から見ても直接扱うことはないでしょう。大人の事情が色々あるのですよ、きっと。

親子関係とかそういうのはとりあえず置いておいて、ビールファンとしては美味しいものが飲めたらそれはそれで幸せです。Two Hearted IPAやOberonも良いのですが、Hop Slamが日本で飲めたらいいなぁと夢想したりもします。でも、恐らくそれは叶わぬ夢なのでしょう。