COMITIA137新刊「クラフトビールを仕事にしたいと思った時の業界俯瞰図」について 

新型コロナウイルスが猛威を奮い、ビール祭りも尽く中止となりました。書籍の即売会もどんどん中止に追いやられていますが、淡い期待を持って申し込んでいたCOMITIA137が様々な対策を講じた上で9月20日、東京・青海の東京ビッグサイトにて開催されることになりました。新刊携えてCRAFT DRINKSも参加致します。

一昨日なんとか入稿というきわどい綱渡りをし、これから印刷所に引き取りに行くところです。出来る限り良いものにしたくてギリギリまで粘るのは毎度のことなのですが、それに伴って告知も後ろ倒しになるというのは宜しくないですよね・・・。

さて、今回新たに出す「クラフトビールを仕事にしたいと思った時の業界俯瞰図」について少しご紹介致します。この本を書くにあたってきっかけがあったのです。

2月に気がつけば21世紀生まれの人がお酒飲むようになったからと題した文章の中でこんなことを書きました。

先日、大学の卒論のテーマにクラフトビールを選んだ方から連絡があってやりとりをしました。ちょっとだけですが研究のお手伝いをしたのです。声を掛けてもらえたことを嬉しく思いつつ、そのおかげで本気の厳しい意見をしてしまったかもしれない。提示された仮説に対して私の中で根拠も先行事例も知っていたから敢えてそれを隠すのもおかしなことだと考えてフルスイングしました。私の立場からお伝え出来ることは全て伝えたつもりなので上手に使って頂けたら、と思います。

このことは私の中で決して小さくない出来事として残っていました。テーマが全く違うので比較するのもおかしいけれど、私が卒論を書こうと思った時に尋ねる相手はいなかったなぁと思ったのです。

そう言えば、就活のことは全く聞いていなかったと気付きました。この方が卒業後クラフトビールの世界に来るかどうかは聞いていないので分からない。とりあえずクラフトビールが好きでいてくれたら嬉しいし、いつか一緒に仕事が出来たら良いね。大学で専門にしたことの延長で仕事をするのだろうか。その場合クラフトビールと何か繋がりが見つかるだろうか。ビール片手にちょっと酔っ払った頭でぼんやり考えてみるのです。

ふと浮かんだのはこの一節です。メディアアーティストの落合陽一氏が10年後の仕事図鑑という本でこう語っています。

転移学習の必要性は日に日に高まっている。デジタル空間の中では転移学習が可能なはずだが、現状人間は、誰かが学習したデータを他の人からもらうことはできない。それゆえ人はムダを繰り返す。

一般に、目指すべきゴールが明確な場合は「ムダを繰り返す」だと断言して良いと思うけれど、そうでない場合は有意義な寄り道になることもあるよな・・・とも思います。とはいえ、趣味ではなく仕事としての活動においてはその通りだろう。地図があって、目的地までの道のりが可視化されているのであれば一直線に進むべきだ。寄り道している暇はない。

ポイントは「誰かが学習したデータを他の人からもらうことができない」という点です。攻殻機動隊の世界ならば電脳で全ての人が繋がって、得られたデータは瞬時に多くの人間に共有される。落合氏の言うことが実現しているのが草薙素子の生きる2029年だけれども、あと8年でそんな世界が到来するとは今のところ思えない。

一切劣化しない完全複製、つまりコピーこそがデジタルの本質だとするならば、対比的に私たちは生身の体から解放されることもなく、まだまだアナログのままであるということが強調されます。コピーしてインストールすることは出来ないから各人毎回ゼロから積み上げていかねばならないけれども、そのスピード如何によってはクラフトビールという荒波のパワーとスピードに耐えられず溺れてしまうだろう。いっぱい道草食っいても許してもらえるほど穏やかな世の中ではないと言えるかもしれない。先にあるものは上手に使うべきだというのは間違いないけれども、「先にあるもの」は諸先輩方の頭の中にあって学習可能な形でデータ化されているとは限らない。ここは大きな問題だと改めて思うに至る訳です。

クラフトビールを好きになって本気で仕事にしたいと考える方がいらっしゃることは存じ上げています。過去何度もそういう相談に乗ったこともありますが、クラフトビールの業界にどういうビジネスがあって、どう動いているのか、その中にどういうジョブがあるかということがあまり知られていない。業界に飛び込んでみたけれど、自分の希望と職業がマッチしていなかったり、予想もしなかったつまらないことで凹んだりしてその熱意や想いをシーンに還元できないようでは勿体ないと思うのです。クラフトビール業界と言えばブルワリーやパブが真っ先に思い浮かぶだろうけれど、その他にも色々とあってその関わり方は複雑だということはもっと知られるべき事実でしょう。

そういう意味でシーンの状況を産業、ビジネスという視点で一度俯瞰、概観しておくことは決して損ではないはずです。私の駆け出しの頃には無かったけれど、今も無いというのは流石に良くないのではないかと先述の大学生と話をして思ったわけです。私がその役割に相応しいのかどうかは分かりませんが、無いのだからとりあえずやってみようと筆を執りました。今どこまで来ているのか、どこまで広がっているのかを知るきっかけにして頂けたら嬉しいです。加えて、その中で自分をどこに位置づけようかと考える手助けになるならばこの上ない幸せです。

クラフトビールシーンは常に流転し続けています。だから、私が綴った事柄は綴ったその瞬間に過去完了形となり、永遠に「今」には追いつきません。この取組みに完成はなく、アップデートされ続けなくてはなりません。今回私の力不足でこぼれ落ちてしまった情報もあるでしょうから、ライフワークの一つとして皆様との対話を通じて改訂版作成を続けていきたいと思います。

・・・と、まぁ、ごちゃごちゃ書きましたが、つまるところクラフトビールを産業として捉えた時にどういう役割があり、どう関わっているるかというのを私なりに一旦まとめてみたのです。見本誌もご用意しますので、お手に取ってご覧ください。CRAFT DRINKSのブースは「ひ18a」です。皆様にお目にかかるのを楽しみにしております。

一点だけ追記。残り冊数はまちまちですが、以下の既刊3点も持ち込みます。ご興味ある方は是非。

「アメリカのクラフトビールをダイバーシティと言う視点で読む」
クラフトビール発祥のアメリカという国ではクラフトビールを愛飲している人がたくさんいますが、多民族国家であるアメリカでクラフトビールを飲んでいるアメリカ人とは一体誰なのか?ビールとエスニシティ、ダイバーシティについて。

「ビールのスタイルと多様性、感性と言葉」
現在当たり前だと思われている認識の形式について疑うこと。クラフトビールにおけるビアスタイルの豊富さは多様性を表すと言われるけれど、それは本当なのか?本来そうではないことを示し、シーンでの使用法とあるべき姿、尊重すべきものに関する論考。

「クラフトビールと地ビール、流通と地域について」
日本のクラフトビールは地ビールと同じなのか?地産地消しているのか?21世紀におけるクラフトビールビールの生産・消費の構造を考える本。クラフトビールで地方は活性化するのかを考える試み。